リリアとのデート
セレスティアは次期王妃に確定している。
王妃教育における序列二位のフローラは、そんなセレスティアを姉のように慕っていた。
さらに隣国の姫であるクラリスまでもが、セレスティアを「お姉さま」と呼んで慕っている。
そして国内最大の武力を誇る辺境伯令嬢、リリアにとっても、セレスティアは憧れの存在だった。
国内だけではない。
周辺国にまで、セレスティアの立場と影響力が盤石なものであることは知られている。
そんなセレスティアが、最近考えていることがあった。
アレンとリリアの関係を、もう少し深めてみよう。
そのために用意したものがある。
台本だった。
「……またかよ」
アレンは手元の台本を眺めながら、深いため息をついた。
待ち合わせ場所には、すでにリリアが来ている。
「アレンさん、お待たせしました」
「いや、今来たところだ」
嘘だった。
かなり前から待っていた。
というより、台本を読まされていた。
アレンは一度台本を閉じ、そしてもう一度開いた。
一ページ目。
そこには大きく書かれていた。
『移動中は手を繋ぐこと』
「まただ……」
前にも同じことがあった。
フローラのときも。
クラリスのときも。
そして今回も。
「……なんで毎回これなんだよ」
アレンは諦めてリリアへ手を差し出した。
「リリア、行こうか」
「はい」
リリアは何の疑問も持たず、その手を取った。
その瞬間、アレンは台本の端に小さく書かれた注意書きに気づいた。
『トイレに行きたくなった場合は、適切に処理すること』
「……」
意味が分からない。
しかし、今回はリリアも意味が分からないらしい。
アレンは考えるのをやめた。
「まあ、いいか」
そして二人は町へ歩き出した。
最初に向かったのは武器屋だった。
「武器屋?」
リリアが首を傾げる。
「好きな物を買ってあげる」
「え?」
リリアの表情が変わった。
店内には剣や槍、弓、魔法武器などが並んでいる。
リリアは一つ一つ手に取って確かめていく。
「これもいいですね」
「じゃあ、それ」
「こちらも……」
「それも」
「この剣はかなり高価ですが」
「買えばいいだろ」
リリアは困ったような顔をした。
だが、辺境伯令嬢として武器を見る目は確かだった。
結局、いくつもの武器を購入することになった。
店を出る頃には、店員の顔が完全に引きつっていた。
「次は防具屋だ」
「まだ行くんですか?」
「台本に書いてある」
「台本?」
「気にするな」
防具屋でも同じだった。
「好きな物を買ってあげる」
「……本当に?」
「本当に」
リリアは鎧や籠手、靴などを次々と確認していく。
武器と違って、防具は実用性が重要だ。
リリアは自分の戦い方に合うものを選び始めた。
「これは騎士団にも使えそうですわね」
「じゃあ、それも買おう」
「アレンさん……」
リリアは少し呆れたようにアレンを見る。
だが、止める理由もなかった。
次は魔道具屋。
「好きな物を買ってあげる」
「またですか?」
「そういう日らしい」
リリアは店内を見回した。
魔道具には興味があるらしい。
「これ、騎士団で使えそうです」
「買おう」
「こちらも」
「買おう」
「これも便利そうですわ」
「買おう」
「……アレンさん」
「何だ?」
「本当に大丈夫なんですか?」
「何が?」
リリアは答えに困った。
金のことを心配しているのだが、アレンにはまったく問題がない。
むしろ台本に従っているだけだった。
次はレストランだった。
「ここでは好きなだけ食べさせてあげる」
「好きなだけ?」
「好きなだけ」
リリアは少し考えた。
そして注文した。
一つ。
二つ。
三つ。
料理が次々と運ばれてくる。
「……」
アレンは黙って見ていた。
リリアは辺境伯令嬢だ。
普段から騎士団を率いる立場でもある。
当然、食事量もそれなりに必要なのだろう。
「美味しいですわ」
「それはよかった」
リリアは満足そうに食事を続けた。
そして最後に道具屋へ向かった。
「ここでも好きな物を買っていい」
「本当に何でもですか?」
「何でも」
リリアは店内を見て回る。
冒険者向けの道具。
野営用品。
収納用品。
便利な魔道具。
騎士団で使えそうなもの。
そして気づけば、ここでもかなりの量を購入していた。
店を出る頃には、リリアは大量の買い物袋を抱えていた。
「……」
アレンは台本を閉じた。
何だったんだ、今日。
武器を買って。
防具を買って。
魔道具を買って。
食事をして。
道具を買った。
これをデートと呼んでいいのだろうか。
隣ではリリアが嬉しそうに買ったものを確認している。
「アレンさん」
「ん?」
「今日はありがとうございます」
リリアは笑顔で言った。
「またお出かけしましょう」
「…………………なんだこれ」




