セレスティアの休日
アレンは町を歩いていた。
今日は特に用事があるわけではない。
ダンジョンの様子を確認した帰りに、町を適当に歩いているだけだった。
すると、前からフローラが歩いてくるのが見えた。
「アレンさん」
「フローラか。どうした?」
「ちょうどよかったです。少しお願いがあります」
「なんだ?」
フローラは少しだけ困った顔をした。
「お姉さまとデートしてください」
「……は?」
アレンは思わず聞き返した。
「セレスティアと?」
「はい」
「なんで俺が?」
「お姉さまが働きすぎだからです」
「ああ……」
それなら納得できる。
セレスティアは商人組合の仕事をしたり、貴族から相談を受けたり、ダンジョンとの交渉をしたり、とにかく何かしている。
「本人に休めって言えばいいだろ」
「言いました」
「それで?」
「休むと言って、仕事を始めました」
「……なるほど」
「ですから、アレンさんから強制的に連れ出してください」
「強制って言い方が怖いな」
「お願いします」
フローラが頭を下げる。
アレンは少し考えた。
「分かった」
「本当ですか?」
「ああ。ただし、俺はデートなんてしたことないぞ」
「お姉さまも、たぶん似たようなものです」
「それはそれで問題だな」
アレンはセレスティアのところへ向かった。
「セレスティア」
「アレン? どうしましたの?」
「今日は仕事を休め」
「突然ですわね」
「フローラに頼まれた」
「……あの子」
セレスティアは小さくため息をついた。
「私はそんなに働いているつもりはありませんわよ」
「周りから見ると働きすぎらしいぞ」
「そうですの?」
「だから今日は町に行く」
「仕事は?」
「禁止」
「……誰が決めたんですの?」
「フローラ」
「本人ではなく、あなたが言うのですね」
「本人に言われても聞かないんだろ?」
セレスティアは何も言い返せなかった。
「分かりましたわ。では行きましょう」
二人で町へ出る。
まずは商店街を歩いた。
セレスティアは楽しそうに店を眺めている。
「この店、以前より客が増えていますわね」
「仕事禁止」
「まだ何も言っていませんわ」
「その顔は仕事の顔だった」
「失礼ですわね」
二軒目。
セレスティアが商品を手に取る。
「この商品、仕入れを変えれば――」
「仕事禁止」
「商品の感想を言おうとしただけですわ」
「本当か?」
「本当ですわ」
アレンは疑わしそうにセレスティアを見る。
セレスティアは笑った。
「あなた、今日はずいぶん厳しいですわね」
「フローラに頼まれたからな」
「そこまで心配されていたのですか」
「まあな」
しばらく歩いていると、今度は商人がセレスティアに気づいた。
「セレスティア様!」
「はい?」
「少しご相談が――」
「今日は駄目だ」
アレンが先に答えた。
「え?」
商人が固まる。
「今日は俺とのデートだから」
「アレン?」
「今日は仕事禁止だ」
セレスティアは呆れたように笑った。
「あなた、私より私の仕事を管理していません?」
「そうなってるな」
二人はそのまま食堂に入った。
「何を食べる?」
「今日はあなたに任せますわ」
「珍しいな」
「いつも私が決めているわけではありませんわ」
「じゃあこれで」
アレンが適当に注文する。
料理が運ばれてくる。
セレスティアは一口食べると、少し目を見開いた。
「美味しいですわね」
「だろ?」
「こういう店もいいものですわ」
「普段はもっと高いところに行ってるのか?」
「そういうわけではありませんわ。ただ、町でゆっくり食事をする機会が少ないだけです」
「じゃあ今日は成功だな」
「何がですの?」
「フローラの作戦」
セレスティアが笑う。
「そうですわね」
食事を終え、二人は再び町を歩く。
今度はセレスティアから店に入ろうと言い出した。
服を見て、菓子を買って、最後にはベンチに座って町を眺める。
「……悪くありませんわね」
「だろ?」
「ええ。最近、こうして何も考えずに町を歩いたことはありませんでしたわ」
「今日は何も考えるな」
「それは難しいですわ」
「じゃあ、少しだけでいい」
セレスティアは笑った。
「努力しますわ」
しばらく二人で町を眺めていた。
やがてセレスティアが立ち上がった。
「そろそろ戻りましょうか」
「そうだな」
二人はそのまま帰ることにした。
翌日。
フローラはセレスティアのもとを訪れていた。
「お姉さま、昨日はちゃんと休めましたか?」
「ええ。久しぶりに町をゆっくり歩きましたわ」
「それならよかったです」
フローラは嬉しそうに笑った。
「たまには外を歩くのもいいですわね」
「そうですわね。私もそう思いましたわ」
セレスティアは満足そうだった。
「お姉さまがリフレッシュできたならよかったです」
「フローラ、あなたには礼を言いますわ」
「私に?」
「ええ。あなたがアレンに頼んでくれたのでしょう?」
「はい」
「おかげで、とても有意義な時間を過ごせましたわ」
フローラは安心したように頷いた。
「それならよかったです」
「町を歩いていたら、アイデアが浮かびましたの」
「……え?」
フローラの笑顔が止まった。
「アイデア、ですか?」
「ええ」
「仕事の?」
「そうですわ」
フローラはしばらく黙った。
「お姉さま」
「なんですの?」
「全然仕事忘れてませんわ」




