想定外の攻略法
アレンはマスタールームで、面白くなさそうに画面を見ていた。
画面に映っているのは、60階層を突破した冒険者たちだった。
「……」
その表情は、明らかに不機嫌だった。
隣にいたセレスティアが、そんなアレンを見て声をかける。
「不機嫌そうね」
「不機嫌だよ」
即答だった。
「何がそんなに気に入らないの?」
「あんなの反則だよ」
「反則?」
セレスティアは画面を見る。
そこには、60階層を突破した五つの勇者候補パーティーが映っていた。
「ルールに不備があったんじゃないの?」
「そうだけど」
「なら、仕方ないんじゃないかしら」
「想定外だよ」
アレンはふてくされたように答えた。
60階層。
そこに配置した魔物は、Sランクパーティー三つ分の戦力を想定していた。
一つのパーティーでは突破できない。
二つでも厳しい。
それなら三つ。
あるいは、それに匹敵する戦力を用意しなければならない。
アレンとしては、それくらいの壁になるつもりだった。
ところが――。
勇者候補たちは、五つのパーティーで攻略してしまった。
「まさか五パーティー集めてくるとは思わないだろ」
「人数を集めればいいということに気づいたのね」
「それを言ったらダンジョン攻略なんて何でもありじゃないか」
「実際、そういうものじゃないかしら」
「ダンジョン側としては困るんだよ」
「あなた、ダンジョンを運営している側なのに、冒険者みたいなことを言っているわよ」
「俺は攻略される側なんだよ」
アレンは画面を睨みつける。
そして、しばらく考えた。
「……こうなったら」
「何をするつもり?」
「上を作る」
アレンはマスタールームの操作画面を開いた。
「80階層まで作る」
「80?」
「今まで70階層までだったけど、延長する」
「ずいぶん急ね」
「60階層を突破されたからな」
アレンの手が止まらない。
新しい階層が作られていく。
そして、70階層。
そこに配置する魔物を選択する。
「ここにヒュドラを置く」
「ヒュドラ?」
「フィールド継続ダメージ持ち」
セレスティアが画面を見る。
「人数を増やせば倒せる相手ではないということ?」
「そう」
アレンは頷いた。
「五パーティーだろうが十パーティーだろうが、全員まとめてダメージを受ける」
「なるほど」
「人数で押し切る攻略は、ここで終わり」
アレンはさらに階層を操作する。
70階層にヒュドラ。
そして、80階層。
「クロノスは80階層に移す」
「クロノスを?」
「70階層じゃ早すぎる」
アレンは不機嫌そうに言った。
「ヒュドラでふるいに落としてやる」
「……かなり機嫌が悪いわね」
「悪いよ」
アレンは即答した。
「せっかく60階層を難しくしたのに、五パーティーで突破されるんだぞ」
「でも、攻略する側からすれば人数を集めるのは普通じゃない?」
「それでもだよ」
アレンは納得していない。
「こっちは一生懸命考えて配置したのに」
「ダンジョンの魔物に『一生懸命』という概念があるのかしら」
「あるんだよ」
「そう」
セレスティアは、それ以上突っ込まなかった。
アレンは画面を見ながら、さらに不機嫌になっていく。
しかも、悪いことは重なっていた。
少し前には、聖剣まで交換された。
三十億という大金を払って手に入れられた聖剣。
しかも、Aランク冒険者以上という条件まで満たした者に渡った。
「聖剣まで交換されるし……」
「まだ気にしてるの?」
「気にするよ」
「あなたが売ったのでしょう?」
「そうだけど」
「なら売れたことを喜べばいいじゃない」
「そういう問題じゃないんだよ」
アレンは頬杖をついた。
60階層は突破された。
聖剣も交換された。
そして、勇者候補たちはどんどん強くなっている。
自分が用意したダンジョンが、攻略されるたびに攻略者側が強くなっていく。
「……絶対に80階層まで来させる」
アレンは呟いた。
「70階層でヒュドラを突破できるか試してやる」
セレスティアは苦笑する。
「あなた、完全にダンジョン側の人間になっているわね」
「俺は最初からダンジョン側だよ」
アレンは画面を睨みながら答えた。
「今度は簡単には突破させない」
マスタールームには、しばらくアレンの不機嫌な空気が漂っていた。
聖剣が交換されたこと。
60階層が突破されたこと。
その二つが重なったせいで、アレンの機嫌はしばらく直りそうになかった。




