60階層の様子
アレンはマスタールームで、60階層の様子を眺めていた。
60階層に配置しているモンスターの強さは、Sランクパーティー三組分。
最初にこの階層を作ったとき、アレンは誰も挑戦してこないだろうと思っていた。
Sランクパーティーが一組なら、話にならない。
二組でも厳しい。
三組を揃えてようやく、正面から戦える程度の強さなのだ。
ところが、最近になって状況が変わってきた。
勇者候補は一人ではない。
複数の勇者候補が存在し、それぞれがパーティーを組んでいる。
そして、その勇者候補パーティーの中には、50階層を突破する者たちまで現れていた。
「まさか、ここまで来るとはな」
アレンがモニターを見ながら呟く。
50階層を突破できるということは、60階層を目指す資格を得たということでもある。
もちろん、50階層と60階層では難易度がまるで違う。
それでも、以前はそもそも60階層を目指せるパーティーそのものが少なかった。
今は違う。
50階層を突破した勇者候補パーティーが増えたことで、60階層に挑戦しようと考える者たちも増えてきていた。
そして現在、60階層の前には複数のパーティーが集まっている。
ただし、無謀に突っ込もうとしているわけではない。
「やっぱり、情報を集めてるか」
モニターに映っているのは、以前60階層を攻略したSランクパーティーだった。
60階層を実際に戦った経験を持つSランクパーティーは、この一組だけ。
彼らは他のパーティーに対して、60階層のモンスターについて説明していた。
「攻撃の予備動作は?」
「右腕を振り上げたあとに、少し間がある。その直後に来る」
「威力はどれくらいだ?」
「まともに受ければ、Sランクでも無事では済まない」
「相性のいい組み合わせは?」
「前衛だけで固めるのは危険だ。遠距離から攻撃できる奴を入れたほうがいい」
実際に戦った者だからこそ分かる情報が、次々と共有されていく。
アレンはその様子を見ながら考える。
以前の攻略では、Sランクパーティー一組だけでは足りなかった。
聖女の協力があったからこそ、攻略できたのだ。
聖女の戦力は大きい。
一人でありながら、Sランクパーティー二組分に相当する。
つまり、
Sランクパーティー一組。
そこに聖女を加える。
合計すると、Sランクパーティー三組分。
60階層の戦力とほぼ同等になる。
だからこそ、以前のSランクパーティーは聖女の協力を得ることで60階層を突破することができた。
だが、今は別の方法もある。
「Sランクパーティーが三組揃えば、聖女はいらないんだよな」
アレンはモニターを見ながら呟いた。
Sランクパーティー三組。
それだけの戦力を集めることができれば、聖女に頼らなくても60階層と同等の戦力を用意できる。
もちろん、単純に人数を集めればいいという話ではない。
戦力の噛み合わせ。
役割分担。
攻撃のタイミング。
回復。
防御。
そして何より、60階層のモンスターの攻撃パターンを把握しているかどうか。
だからこそ、以前戦ったSランクパーティーから情報を聞き出しているのだろう。
「なるほどな」
アレンは納得する。
50階層を突破した勇者候補パーティーが増えた。
その中から60階層を目指すパーティーが出てきた。
そして、複数のパーティーが協力すれば、60階層を突破できる可能性が生まれる。
以前なら考えなくてもよかった問題だった。
だが今は違う。
「そろそろ挑戦してくるか」
アレンはモニターを眺める。
60階層の攻略準備は、確実に進んでいる。
まだ三組のSランクパーティーが揃ったわけではない。
だが、集めようとしている。
それだけでも十分だった。
「まあ、いつかは倒されるよな」
アレンは少しだけ寂しそうに呟いた。
ダンジョンを作っている以上、攻略されることは避けられない。
どれだけ強いモンスターを配置しても、冒険者たちはそれを突破する方法を探してくる。
ならば、こちらも次の手を用意するしかない。
「ダンジョンも拡張しておくか」
アレンはダンジョンコアに向き直った。
「SSランクのヒュドラを準備しよう」
60階層を突破した者たちを、さらに先で待ち受ける新たな壁。
Sランク三組分の戦力を突破したからといって、そこで終わりではない。
次はSSランク。
アレンは新たなモンスターの配置について考え始めた。
そして最後に、70階層の存在を思い出す。
そこにいるのは、古竜。
後にクロノスと名付けられることになる、圧倒的な存在。
「まあ、クロノスとの最終決戦はまだ早い」
今の冒険者たちには、まだそこまでの力はない。
ならば、その前に一つ、越えるべき壁を用意しておけばいい。
アレンはそう考えながら、SSランクのヒュドラをダンジョンに配置する準備を始めた。




