セレスティアのダンジョン
「お前のダンジョンは最近どうだ?」
アレンがセレスティアに尋ねた。
「順調ですわ」
セレスティアは手元の紅茶を飲みながら答える。
「ギルドの認定試験の指定ダンジョンになったでしょう? それにBランクダンジョンにも上がりましたから、借りたポイントはすぐ返せそうよ」
「それは何よりだ」
セレスティアのダンジョンは、以前とは比べものにならないほど冒険者が訪れるようになっていた。
ギルドの認定試験に使われることで定期的に冒険者が訪れ、さらにBランクダンジョンとなったことで、より高位の冒険者たちも集まっている。
ダンジョンそのものが稼ぐポイントも増えていた。
「最初はどうなるかと思ったけどな」
「私もよ。まさか借金をここまで早く返せるとは思わなかったわ」
「それなら、そろそろダンジョン間の移動も使っていいんじゃないか?」
「ダンジョン間の移動?」
「ほら、俺たちが作ったやつだよ」
アレンが言っているのは、ダンジョン同士を繋ぐための移動経路だった。
現在も存在しているが、ほとんど使われていない。
「お前の帰省にしか使ってないんだな」
「今のところはね」
セレスティアはあっさり答えた。
「今開放したら、冒険者がそっちに取られちゃうからね」
「なるほど」
アレンも少し考える。
セレスティアのダンジョンとこちらのダンジョンが自由に行き来できるようになれば、冒険者にとってはかなり便利だ。
だが、便利すぎる。
「通行料金を取って、商人に使わせるぐらいしか使い道はないわね」
「商人か」
「ええ。冒険者を自由に通してしまったら、こちらのダンジョンから一気に冒険者が流れてしまうでしょう?」
「それは困るな」
「もちろん、向こうのダンジョンにとっても同じことよ」
セレスティアは少し考えた。
「でも、商人なら話は別ね」
「じゃあ、そっちの一階層のトンネルをくぐったら、こちらの一階層に繋がるようにしようか?」
アレンが思いついたように言う。
「移動時間が短くなれば、物流もかなり楽になるだろ」
「それは便利でしょうね」
セレスティアも否定しない。
しかし、すぐに首を横に振った。
「でも、それをやると困る町が出てくるわ」
「町?」
「ええ」
セレスティアは地図を広げる。
「今は行商人が街道を通って、それぞれの町で宿泊したり、食事をしたり、商品を売ったりしているでしょう?」
「そうだな」
「ダンジョンを一直線に繋いでしまったら、その行商人たちが街道を使わなくなる可能性があるわ」
「ああ……」
「行商人が通らなくなると困る町もあるのよ」
アレンは地図を見る。
確かに、ダンジョン同士を繋ぐことだけを考えれば便利になる。
だが、その途中にある町からすれば、今まであった商売が突然消えることになる。
「じゃあ、どうする?」
「入り口に検問所を設置するわ」
「検問所?」
「私が認めた貴族と商会だけ通れるようにするの」
セレスティアは迷いなく答えた。
「通行する人間を制限して、既存の物流を壊さないようにするのよ」
「なるほどな」
アレンは腕を組む。
「俺の構想だと、冒険者を自由に移動できるようにするつもりなんだけどな」
「私のダンジョン以外でやってみなさい」
セレスティアが即答した。
「問題点が見えてくるわよ」
「……そんなに問題があるか?」
「あるわ」
セレスティアは地図を指差した。
「便利な道を一つ作るだけでも、人の流れは変わるのよ。人の流れが変われば、商売も変わる。商売が変われば、町の収入も変わる」
「確かに」
「ダンジョンだけを見て考えてはいけないわ。周囲の町まで含めて考えないと」
「ダンジョンを便利にすることが、必ずしも全員にとって便利とは限らないってことか」
「そういうことね」
アレンはしばらく地図を眺めた。
そして、ぽつりと言った。
「そうだな……二ヶ所目を考えてみるか」
「ええ。そのほうがいいと思うわ」
セレスティアは紅茶を飲みながら微笑んだ。
アレンの構想では、ダンジョン間を自由に行き来できるようにする。
だが、その実験場所をセレスティアのダンジョンにしてしまえば、既存のダンジョンの経営まで巻き込んでしまう。
それなら――。
まずは別の場所で試してみる。
アレンは新しいダンジョン間移動の実験場所について考え始めていた。




