セレスティアの代役
セレスティア、フローラ、クラリスの三人は、屋敷の一室でお茶会をしていた。
テーブルには紅茶と色とりどりの菓子が並んでいる。
クラリスが菓子を一つ手に取っていると、向かいに座っていたフローラがセレスティアに声をかけた。
「お姉さま、新しい台本ありがとうございました」
「どういたしまして」
「アレンさんと、とても楽しく過ごせました」
フローラは嬉しそうに微笑んだ。
以前よりもアレンとの距離が縮まったことは、セレスティアから見ても分かっていた。
「それは何よりね」
「はい。最初はどうなることかと思いましたけど、町を歩いたり、お店を見たり、お茶をしたり……思っていたより楽しかったですわ」
「でしょう?」
セレスティアは満足そうに紅茶を飲む。
しかし、フローラはそこで少し表情を変えた。
「……お姉さま」
「何かしら?」
「私はひどい目に合いました」
「何が?」
「トイレは適切に処理するって何ですか?」
セレスティアの動きが一瞬だけ止まった。
「王妃教育であったでしょう?」
「ありましたけど……」
「式典などで長時間離席できない時の緊急避難処置よ」
「そんな説明を改めてしないでください……」
フローラは恥ずかしそうに視線を逸らす。
「あれは王妃様も一度も経験してないと言ってましたわ」
「そうね」
「私はつい最近、体験しましたわ」
「私もデートで実践しましたわ」
「………………」
「…………………」
二人の間に、妙な沈黙が流れた。
クラリスは手にしていた菓子を皿に戻した。
「何の話をしてるのですか?」
フローラがセレスティアを見る。
セレスティアもフローラを見る。
そして二人とも、何事もなかったかのように紅茶を飲んだ。
「この国の王妃教育に関わることだから気にしないで頂戴」
「いや、余計に気になりますけど……」
クラリスは納得できない顔をする。
隣国でセレスティアを姉のように慕っているクラリスだが、この国の王妃教育については詳しくない。
まして、今の二人が何を思い出しているのかなど分かるはずもなかった。
セレスティアは話題を変えるように、フローラへ視線を向ける。
「そういえば、フローラ」
「はい?」
「私が外国に出かけている間は、あなたにダンジョンとの窓口になってもらうつもりなの」
「私がですか?」
フローラが少し驚く。
「ええ」
「お姉さまがいない間の交渉を、私が?」
「そうよ」
セレスティアは頷いた。
「ダンジョンとの関係は、これからも重要になるわ。私がいないからといって、交渉を止めるわけにはいかないでしょう?」
「確かにそうですね」
フローラは少し考える。
ダンジョンには町があり、商業施設があり、王国との取引もある。
さらにアレンが関わっている以上、単純な観光地や一つの商業施設として扱える存在ではない。
セレスティアが今まで担当してきたことも多い。
だからこそ、彼女が不在になるなら、その役目を引き継ぐ人間が必要になる。
「私に務まりますでしょうか?」
「フローラなら大丈夫よ」
セレスティアは迷いなく答えた。
「あなたは私と一緒に王妃教育を受けてきたでしょう?」
「それとダンジョンとの交渉は別だと思いますけど……」
「それに、あなたはアレンさんとも少しずつ関係を築いているでしょう?」
「……そうですね」
先ほどの台本を思い出し、フローラの頬が少しだけ赤くなる。
「今回の町での交流も、そのためだったのですか?」
「もちろん、それも理由の一つよ」
「なるほど……」
フローラは納得したように頷いた。
セレスティアはそんなフローラを見て微笑む。
「だから、私が外国にいる間はお願いね」
「分かりました」
フローラはしっかりと頷いた。
「お姉さまがそういうなら、できる限り頑張りますわ」
「ええ。いい関係を築いてくださいね」
「はい」
その会話を聞いていたクラリスは、完全に取り残されていた。
最初は王妃教育の話。
その途中からトイレの話。
そして今度はダンジョンとの交渉。
しかも、セレスティアとフローラは当然のように話を進めている。
クラリスは二人を交互に見る。
「……」
結局、最後まで何の話をしているのか分からなかった。
クラリスには分からない会話であった。




