フローラの立場
「セレスティア、町デートもシリーズ化しないよな?」
アレンは念のため確認した。
「しないわよ」
セレスティアは即答する。
「私やフローラには必要ないから」
「本当だな?」
「ええ」
「絶対だぞ?」
「そんなに警戒しなくてもいいでしょう」
アレンは少し安心した。
クラリスとの社会見学では、まさか台本まで用意されていた。
これ以上、似たようなシリーズが増えるのは勘弁してほしい。
「そういえば」
アレンはふと思い出したように口を開く。
「フローラの立場ってどうなんだ?」
「今さらね」
「なんでだ?」
「フローラが侯爵令嬢って知っているわよね?」
「それは知ってる」
「それなのに、今さら聞くの?」
「いや……」
アレンは少し考える。
「どうしても、お前の妹分みたいに見えてたからな」
「妹分ね……」
セレスティアは少し呆れたような顔をする。
「フローラは私と王妃教育を一緒に受けた王妃候補よ」
「王妃候補?」
「ええ」
「そうだったのか」
「しかも序列二位よ」
「二位?」
「私が一位。フローラが二位」
アレンは目を丸くした。
「そんなに上だったのか」
「王妃候補なのだから当然でしょう」
「いや、普段のお前たちを見てると、そんな感じが全然しないんだよ」
「どういう意味かしら?」
「フローラって、お前についてきて楽しそうにしてることが多いだろ」
「それと王妃候補であることは両立するでしょう」
「まあ、それはそうだけど……」
アレンは腕を組む。
「じゃあ、お前に何かあった場合は?」
「私に何かあれば王妃はフローラよ」
「……」
アレンは黙った。
今までのフローラの印象が、少し変わった。
いつもセレスティアの側にいる侯爵令嬢。
気軽に話せる相手。
そして、自分が勝手に妹分だと思っていた少女。
しかし実際には、セレスティアに何かあった場合、次の王妃になる立場にいる。
「なるほどな……」
「分かった?」
「うん」
アレンは少し考えてから呟いた。
「俺、フローラのことをお前の妹分としてしか見てなかった」
「それだけで私がフローラを側に置くと思う?」
「……思ってた」
「本当に?」
「だって、いつも一緒にいるから」
「王妃候補だからこそ、私の側にいるのよ」
「そういうことか」
アレンは納得した。
「王妃教育も一緒に受けてるんだもんな」
「ええ。王妃になるための知識だけではなく、国をどう見るか、どう判断するかも学んできたわ」
「じゃあ、フローラもかなり国のことを考えられるんだな」
「もちろんよ」
セレスティアは当然のように答える。
「ただの侯爵令嬢だと思っていたなら、認識を改めたほうがいいわね」
「分かった」
アレンは素直に頷いた。
「今度からフローラを見る目を変えるよ」
「そうしてちょうだい」
「……でも」
「何?」
「やっぱり、お前の妹分に見えるんだよな」
「あなたね……」
セレスティアが呆れた顔をする。
「まあ、フローラ本人がどう思っているかは知らないけど」
「本人に言わないほうがいいわね」
「そうだな」
アレンは苦笑する。
そして、セレスティアが何気なく付け加えた。
「それに、私と結婚してもクラリスと結婚しても、王になれますわよ」
「……」
アレンの表情が固まった。
「そのネタもういい」
「何が?」
「またそれかよ!」
「だって事実でしょう?」
「今、フローラの立場について話してたんだろ!」
「その話から自然につながっただけよ」
「どこが自然なんだよ!」
アレンは頭を抱える。
「最近、何か話をするとすぐ結婚の話になるんだけど」
「あなたが気にしすぎなのよ」
「絶対違う」
セレスティアは楽しそうに笑っている。
アレンは深いため息をついた。
せっかくフローラの立場を理解できたというのに、最後にはまた同じ話に戻されてしまった。
「……もうそのネタは聞かないからな」
「そう?」
「絶対だ」
「分かったわ」
セレスティアはそう答えた。
しかし、その笑顔を見ていると、アレンにはまったく信用できなかった。




