セレスティアの仕事量
クラリスの社会勉強を終えたアレンは、セレスティアと一緒にマスタールームへ戻ってきた。
モニタールームの椅子に座ると、アレンは大きく息を吐いた。
「今日は結構歩いたな」
「クラリスには良い勉強になったと思いますわ」
「まあ、それはそうだな」
アレンはモニターに映るダンジョンの様子を眺める。
そして、ふと思った。
「そういえば、セレスティアってダンジョンを運用してるよな?」
「してますわね」
「他には何をしてるんだ?」
セレスティアは少し考えた。
「いろいろしていますわよ」
「いろいろ?」
「まず、自分の商会の運営ですわね」
「商会までやってるのか」
「ええ。商品の仕入れや販売、人員の配置、取引先との交渉などがありますから」
「……それだけでも結構な仕事じゃないか?」
「他にもありますわ」
セレスティアは指を折りながら続けた。
「領地の運営について、領主から相談を受けることもありますわ。税や産業、道路、農業、商業などについてのアドバイスですわね」
「領地の運営まで?」
「領主本人が判断することですから、私はあくまで助言するだけですわ」
「それでも十分大変だろ」
「国政について意見を求められることもありますわね」
「国政?」
「ええ。新しい制度についてどう思うかとか、商業政策についてどう考えるかとか。聞かれれば答えますわ」
アレンは黙った。
「まだありますわよ」
「まだあるのか……」
「外国の大使と会談することもありますわ」
「外国の大使……」
「国同士の交渉ですから、商業関係の話だけではありませんわ。相手国の情勢や、今後の関係について話すこともあります」
「……」
「それから、国中から商人を使って情報を集めていますわ」
「情報?」
「商品の価格、流通量、どこで何が売れているのか。どの地域で何が不足しているのか。商人は移動しますから、彼らから聞けばかなり広い範囲の情報が集まりますわ」
セレスティアは何でもないことのように言った。
「そのくらいですわね」
アレンはセレスティアを見た。
「……そのくらい?」
「ええ」
「ダンジョンの運用」
「はい」
「自分の商会」
「はい」
「領地の運営への助言」
「はい」
「国政への意見」
「ええ」
「外国の大使との会談」
「ありますわね」
「全国から情報収集」
「そうですわ」
アレンはしばらく黙った。
そして、モニターへ視線を戻した。
「俺、絶対無理だわ」
「何がですの?」
「セレスティアみたいな生活」
「まあ、慣れればどうということはありませんわ」
「慣れでどうにかなる量か?」
アレンは改めて考えた。
自分はダンジョンの中だけでも、モンスターを配置したり、階層を作ったり、施設を増やしたり、ポイントの使い道を考えたりしている。
それだけで結構忙しい。
なのにセレスティアは、それに加えて商会を経営し、領地の相談に乗り、国政に意見を出し、外国の大使と会談し、全国から情報まで集めている。
「俺なら三日で嫌になる」
「三日ですの?」
「いや、初日で嫌になるかもしれない」
「……それは早すぎません?」
「俺はニート生活を始めるためにダンジョンマスターになったんだぞ」
「目的と現状が少しずれている気がしますわね」
「それは言うな」
アレンはモニターを眺めながら呟いた。
「やっぱり俺、ダンジョンの中に引きこもってて正解だったわ」
セレスティアは小さく笑った。
「そういうところは、最初から変わりませんわね」
「変わる必要ないだろ」
アレンはそう言って、再びモニターへ視線を戻した。
外の世界では、今日も誰かが働いている。
そしてセレスティアは、その中でもかなり忙しい側の人間だった。




