30億の価値
「セレスティア、聖剣買えるって……貴族ってそんなに金持ちなのか?」
「私が特別なのよ」
「特別?」
「私は自分の商会を持っているから、個人資産が多いだけよ」
「……なるほど」
アレンは少し考えた。
「俺、考え方を間違えてたのかもしれないな」
「どういうこと?」
「冒険者なら、三十億の聖剣を買えるかどうかは個人資産で考えるだろ?」
「ええ」
「だから俺も、個人で三十億を出せるかって考えてた」
アレンはそこで気づいた。
「でも貴族は違うんだな」
「そうね」
「領地を持っているなら、行政予算がある」
「ええ」
「商会を持っているなら、会社の資産もある」
「そういうことよ」
「つまり、貴族の財力を個人資産だけで考えちゃダメなのか」
「そうね」
アレンは腕を組んだ。
「そう考えると、三十億って俺が思ってたよりずっと小さいのかもしれないな」
「あなたの世界では違うの?」
「いや、かなり大きい」
「……?」
「日本の規模で考えてみる」
「……?」
セレスティアは首を傾げた。
「日本って?」
「俺のいた国だ。セレスティアが知らなくてもいい」
「そう……」
アレンは一人で考え始めた。
「クラリスの国を、日本の国家予算六百兆円ぐらいの規模として考えると……」
「……?」
「セレスティアは大阪府ぐらいで……」
「……アレン?」
「フローラは福岡県ぐらいか」
「何を言っているのか全然分からないわ」
「俺の中で比較してるだけだから気にするな」
「そう……」
セレスティアにはさっぱり分からない。
アレンはさらに計算する。
「……いや、待て」
「?」
「この国の国家予算っていくらだ?」
「五十兆もないわよ」
「……」
アレンは計算をやり直した。
「俺のいた国のほうが規模が大きいな。十分の一ぐらいで考えたほうがいいか」
「だから何を?」
「三十億の価値」
「……」
セレスティアはもう口を挟まなかった。
アレンは一人で計算を続ける。
「セレスティアが政令指定都市ぐらい」
「……?」
「フローラが県庁所在地ぐらい」
「……?」
「男爵が村レベルか」
「……」
「そうすると、子爵以上なら三十億を捻出できる可能性があるのか」
「そうなるんじゃない?」
「なるほどな……」
アレンはようやく納得した。
「個人資産だけで考えてたから、三十億がとんでもない金額に見えてたんだ」
「そういうことね」
「行政予算や会社の資産まで含めると、話が変わるわけか」
「ええ」
アレンは少し考えた。
「この国の人口って?」
「二千万人ぐらいかしら」
「二千万人……」
アレンは固まった。
「俺、ダンジョンの外のこと、まったく分かってなかったな」
「今さらね」
「人口すら知らなかった」
「あなたはダンジョンの中のことばかり見ているもの」
「まあ、運営には困らなかったからな」
アレンはマスタールームのモニターを見る。
ダンジョンの構造。
冒険者。
魔法石。
ダンジョンポイント。
そういうことならかなり詳しい。
しかし、自分が暮らしている世界の人口すら知らなかった。
「……世界のこと、ちゃんと調べたほうがいいな」
アレンは今さらながら、自分の知識がダンジョンの内側に偏りすぎていたことを実感した。




