冒険者制度
セレスティアはアレンに文句を言っていた。
「アレン、冒険者の数が少なすぎますわ」
「そう言われてもな」
「もっと冒険者が来るようにしてくださいませ」
「お前のダンジョンなんだから、お前がどうにかしろ」
「何か手はないのかしら?」
セレスティアは腕を組んで考え込む。
「冒険者が欲しがる物が出れば、来る冒険者は増えるよ」
「やっぱり装備かしら?」
「まあ、定番だな」
「強力な武器や防具を宝箱から出すようにすれば……」
「やめておけ」
アレンは即答した。
「なぜですの?」
「お前のダンジョンは、俺のダンジョンとは違うんだ」
「どう違いますの?」
「俺のダンジョンは、ダンジョンそのものが目的になっている。町もあるし、ダンジョンランドもある。冒険者が何度も戻ってくる理由がある」
「ええ」
「でも、お前のダンジョンは普通のダンジョンだろ」
「普通ではありませんわ」
「そこは今どうでもいい」
アレンは話を続ける。
「普通のダンジョンは、攻略したら次のダンジョンに向かう。強い装備を出して冒険者を呼び込んだところで、その装備の価値が高ければ高いほど、ダンジョン側は赤字になる」
「……それは困りますわね」
「だろ?」
セレスティアはしばらく考えていた。
そして、何かを思いついたように顔を上げる。
「でも」
「ん?」
「私には権力がありますの」
「……何をする気だ?」
嫌な予感しかしない。
「階層を増やしますわ」
「ほう」
「そして、その階層にランク付けに相応しいボスを設置しますの」
「それで?」
「うちの領地で活動する冒険者がランクを上げたい場合、私のダンジョンに挑まなければならない制度に変えますわ」
「…………」
アレンは無言になった。
「つまり、冒険者ランクの昇格試験を自分のダンジョンにするのか?」
「その通りですわ」
「ほとんど反則だな」
「そうかしら?」
「冒険者からしたら、嫌でも来るしかないじゃないか」
「冒険者が来てくださるなら問題ありませんわ」
「問題しかないと思うけどな」
セレスティアは満足そうに微笑んだ。
「私は打てる手はなんでも打ちますわよ」
「……お前、本当に貴族だな」
「褒め言葉として受け取っておきますわ」
「褒めてない」
セレスティアはさらに続ける。
「まずは低ランクの冒険者でも挑める階層を増やしますわ。そして、一定の階層を攻略すれば、そのランクに相応しい実力があると認める」
「まあ、制度としては分からなくもない」
「さらに上のランクを目指す者は、より深い階層へ」
「なるほど」
「そして深い階層ほど、強力なボスを配置しますの」
「ポイントは?」
「……」
「おい」
セレスティアが視線を逸らした。
「ポイントが足りませんの」
「やっぱりか」
「ですから」
「嫌な予感がする」
「ポイントを借りるわね」
「おい待てよ!」
セレスティアは聞こえなかったことにした。
「まずはBランクダンジョンとして認められるところまで、一気に成長させますわ」
「待て待て。お前のダンジョン、今そんな規模じゃないだろ!」
「ですから借りるのですわ」
「返せるのか?」
「冒険者が増えれば返せますわ」
「それ、借金する奴が一番言っちゃいけないやつだぞ」
「大丈夫ですわ」
「何を根拠に……」
セレスティアは胸を張った。
「冒険者が来なければ、来なければならないようにする」
「……」
「強い冒険者が来なければ、来る理由を作る」
「……」
「お金が足りなければ、先に投資する」
「……」
アレンは頭を抱えた。
「お前、俺のダンジョン経営を見て変なことを覚えただろ」
「とても勉強になりましたわ」
「そこは否定しろよ」
こうしてセレスティアは、権力とアレンから借りた大量のダンジョンポイントを使い、自らのダンジョンを急速に拡張していった。
冒険者ランク制度との結びつき。
新たな階層。
各ランクに相応しいボス。
そして、そのダンジョンを攻略することを昇格条件に組み込むという、半ば強制的な集客策。
結果として――
セレスティアのダンジョンは、異例とも言える速度で成長を遂げていく。
そしてついに。
「Bランクダンジョンに認定されましたわ!」
セレスティアは満面の笑みを浮かべていた。
アレンはその報告を聞きながら、ため息をつく。
「……本当にやりやがった」
セレスティアは胸を張る。
「私、やればできますのよ?」
「いや、お前の場合はできるというより……」
アレンは言葉を選んだ。
「権力の使い方がえげつないんだよ」
「褒め言葉ですわね」
「だから褒めてないって」




