セレスティアの帰還
セレスティアは久々に自宅に戻っていた。
最後にこの屋敷へ帰ってきたのは、いつだっただろうか。
王都でやることが増え、ダンジョンへ行くことも増えた。
気がつけば、領地へ帰ることそのものが珍しくなっていた。
だが、今回は久しぶりに帰ることにした。
セレスティアが戻ることは、事前に先触れが出されていた。
そのため、町に入る頃には、すでに大通りに人が集まっていた。
「セレスティア様がお戻りになったぞ!」
「お嬢様だ!」
「久しぶりだな!」
道の両側には、領民たちが集まっている。
セレスティアは自分の人気が高いことを知っている。
だが、これだけの人が集まっているのを見ると、改めてすごいものだと思う。
車はそのまま大通りを通り抜けることもできた。
しかし、セレスティアはそうしなかった。
「あえてゆっくり進ませてくださいな」
運転手にそう伝える。
さらに窓を開けた。
そして、沿道に集まった領民たちへ手を振る。
「セレスティア様!」
「お帰りなさいませ!」
「お嬢様ー!」
歓声が上がる。
セレスティアは笑顔で手を振り続ける。
車は通常よりもずっとゆっくりと進んでいく。
まるでパレードだった。
もちろん、偶然ではない。
セレスティアは意識的にパレードを行っていた。
久しぶりに領地へ戻ってきたのだ。
ならば、自分が帰ってきたことを領民に直接見せればいい。
領主一族が領地を忘れているわけではない。
そのことを伝える意味もあった。
やがて車は屋敷へ到着する。
屋敷の前には、メイドたちがずらりと並んでいた。
車が止まると、全員が一斉に頭を下げる。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「みんな楽にしていいわ」
セレスティアが声をかけると、メイドたちは一斉に姿勢を戻した。
久しぶりの屋敷。
見慣れた場所なのに、どこか懐かしく感じる。
セレスティアは周囲を見渡す。
「お父様は?」
「旦那様は奥様と一緒に応接室でお待ちです」
「向かいますわ」
セレスティアはそのまま応接室へ向かった。
扉を開ける。
「セレスティア、帰ってきたか」
「戻りましたわ」
父親と母親が待っていた。
久しぶりの再会だった。
父親は娘の姿をしばらく眺めてから、口を開く。
「王都にいなくていいのか?」
王都は今も国の中心だ。
政治の中心であり、経済の中心でもある。
セレスティアがそこにいることを疑問に思うのも当然だった。
しかし、セレスティアは首を横に振る。
「王都では情報の入手が遅れますわ」
「王都が中心ではなくなったか?」
「ちょっと違いますわ」
セレスティアはすぐに否定した。
「王都が経済の中心なのは変わりませんわ」
そこは変わっていない。
商人も集まる。
金も集まる。
各地から商品も集まる。
王都が国の重要な場所であることに変わりはない。
ただ――。
「変化のスピードが違うのです」
「変化のスピード?」
「ええ」
セレスティアは説明する。
「王都では、人が集まり、情報が集まり、それを整理してから物事が動きますわ」
それに対して、今のダンジョンは違う。
情報が入ってくる。
その場で判断する。
そして、すぐに指示を出す。
「ダンジョンの中から情報を受け取って指示を出して間に合うのです」
父親は少し考える。
「つまり、王都に常にいる必要がないということか?」
「そういうことですわ」
セレスティアは頷いた。
「王都が中心ではなくなったわけではありませんわ。王都で起きることより、ダンジョンを中心に起きている変化のほうが速くなっているのです」
だから、王都に常時いる必要がない。
王都にいなくても情報は届く。
そして、情報を受け取ってから指示を出せばいい。
わざわざ王都に張り付いている必要はなくなった。
「時代が変わってきているということか」
「そうかもしれませんわね」
セレスティアは少し笑った。
そして、父親はふと思い出したように尋ねる。
「お前が領地に帰ってきたのは三年ぶりか?」
「そのくらいですわ」
セレスティアは答えながら、少し苦笑する。
三年。
言われてみれば、ずいぶん長い。
「ですが、これからは帰ってくる回数が増える予定ですわ」
その言葉に、父親の表情が少し緩む。
「ここはお前の家だ」
そして、優しく続ける。
「いつでも帰ってきなさい」
セレスティアは少しだけ黙った。
久しぶりに戻ってきた自分の家。
王都では感じることのなかった安心感があった。
「そうさせてもらうわ」
セレスティアは笑って答えた。




