親子ダンジョン
今日もマスタールームにはセレスティアが来ていた。
セレスティアはいつものようにモニターを眺めながら、ダンジョンの様子を見ている。
しばらくすると、ふと思いついたように口を開いた。
「私もダンジョンを動かしてみたいですわね」
「このダンジョンはダメだぞ」
アレンは即答した。
「分かってますわ」
セレスティアも特に反論することなく頷く。
「ならいい」
「ところで、ダンジョンコアに聞きたいことがありますの」
セレスティアがダンジョンコアを見る。
「私がダンジョンマスターになれるのかしら?」
ダンジョンコアが答える。
『ダンジョンを掌握したらなれますよ』
「掌握って何をするんだ?」
アレンが聞く。
『ダンジョンコアに魔力を流して、支配権を奪えばいいです』
「……絶対やるなよ」
アレンはセレスティアを見る。
「私はまだ人間をやめるつもりはないわよ」
「俺もやめたつもりはないわ」
アレンは少し考える。
「寿命がないだけだ」
「十分人間離れしてますわよ」
「それは言うな」
そこへダンジョンコアが補足する。
『マスターが権限を渡したら操作できますよ』
「そうなのか?」
『はい』
アレンはマスタールームを見回す。
「このダンジョンは特にいじる必要を感じてないぞ」
すでにダンジョンは十分すぎるほど発展している。
町があり、ホテルがあり、交通手段まで整っている。
アレン自身も、今さらセレスティアに好き勝手に操作されたいとは思わなかった。
するとセレスティアが、別の方向を見始めた。
「他のダンジョンを掌握して私に権限を移せば、私が好きにできますわね」
「何かやりたいことがあるのか?」
「ええ」
セレスティアは少し真剣な顔になった。
「ダンジョンが多い国ほど、豊かな傾向がありますのよ」
「まあ、魔石や素材が取れるからな」
「ですから、ダンジョンの仕組みを知るのは国益ですわ」
「なるほど」
アレンも少し考える。
確かに、このダンジョンだけが特殊なのか。
それとも、他のダンジョンにも似た仕組みがあるのか。
それを調べる価値はある。
ただし――。
「お前が自分で行ってダンジョン落としてこい」
「私は戦えませんわ」
「知ってる」
「ですから困っているのです」
セレスティアは当然のようにピーちゃんを見る。
「ピーちゃんが入れば、並のダンジョンは落とせる」
アレンもピーちゃんを見る。
「ピーちゃんにダンジョンマスターになってもらえ」
「ピーちゃん、戦えるの?」
セレスティアが尋ねる。
「ピー」
ピーちゃんが鳴いた。
「………………」
「通訳がいるな」
アレンはクロノスを見る。
「クロノス、分かるか?」
「俺がいれば心配ない、と言ってる」
「なるほど」
セレスティアはピーちゃんを見る。
「どこを狙う?」
「ピー」
ピーちゃんが答える。
セレスティアは少し考えた。
「その前に、このダンジョンとの関係はどうなるのかしら?」
アレンがダンジョンコアに確認する。
「ピーちゃんがマスターになれば、このダンジョンのモンスターだから、うちが親ダンジョンで、落としたダンジョンが子ダンジョンだな」
「意味はあるのかしら?」
「お互いのダンジョンを行き来できるらしいぞ」
セレスティアの目が輝いた。
「でしたら――」
一瞬考えたあと、セレスティアは笑った。
「私の領地のダンジョンを落としましょう」
「いきなり自分の領地かよ」
「当然でしょう?」
セレスティアはピーちゃんの前に立つ。
「頼みましたよ、ピーちゃん」
「ピー」
「任せろって言ってる」
クロノスが通訳する。
「じゃあ決まりだな」
アレンはモニターを見る。
「うちのダンジョンから、初めて子ダンジョンができるのか」
「楽しみですわね」
セレスティアは嬉しそうに笑った。
こうして、セレスティアの領地にあるダンジョンを、ピーちゃんが攻略することになった。
アレンにとっては、また一つ面倒な仕事が増えた瞬間だった。




