大楯を要求
アレンはまたセレスティアとお茶会をしていた。
最近、セレスティアに呼ばれてお茶を飲む機会が妙に増えている。
もちろん、アレンとしては嫌というわけではない。
ただし――
「今日は何の用だ?」
「いきなりね」
「セレスティアのお茶会は、何か用事があるときに開かれることが多いからな」
「失礼ね。私があなたとお茶を飲みたいだけかもしれないでしょう?」
「それならそれでいいけど」
セレスティアは楽しそうに笑った。
「では、本題に入りましょう」
「やっぱり用事があるんじゃないか」
「リリアがダンジョンに挑んでいるのは知ってるかしら?」
「知ってるけど?」
アレンは紅茶を飲みながら答えた。
リリア。
最近では騎士団を率いてダンジョン攻略に挑んでいる伯爵令嬢だ。
本人はかなり真面目に攻略している。
ただし――
「三十七階層が突破できないらしいの」
「ああ」
アレンは即答した。
「知ってるよ」
「知ってるのね」
「ダンジョンのことだからな。冒険者の動向くらい把握してる」
「どうして突破できないのかしら?」
「三十七階層だけ難易度がバグってるから」
「やっぱりバグなのね」
「バグというか、仕様だな」
「修正しないの?」
「しない」
「即答ね」
「修正する理由がない」
アレンは平然としていた。
「冒険者が負けるだろ?」
「ええ」
「すると報酬を払わずにポイントだけ入ってくる」
「……」
「だから、うちのダンジョンの稼ぎ頭なんだよ」
「冒険者を倒してお金を稼ぐのではなく、挑戦させて失敗させることで儲けているのね」
「その通り」
「性格が悪いわね」
「ダンジョンマスターだからな」
セレスティアは呆れたようにアレンを見る。
「それでね」
「まだあるのか?」
「リリアの愚痴がめんどくさいのよ」
「ああ……」
アレンは納得した。
「それは確かにめんどくさそうだ」
「毎回、三十七階層の話をされるのよ」
「本人も相当悔しいんだろうな」
「私にどうにかできないかと相談してくるの」
「伯爵令嬢だろ」
「ええ」
「対策装備を買えよ」
「それができないのよ」
「なんで?」
「個人資産なら買えるけど、騎士団の予算じゃ買えないのよ」
「……」
アレンは少し考えた。
「そこにこだわるんだね」
「騎士団の装備だから、団員全員が使えるものじゃないと駄目なのよ」
「なるほど」
妙なところで律儀だった。
「でも、三十七階層を突破するためだけに高価な装備を買うのも難しいか」
「そういうこと」
「だったら、地道に攻略するしかないな」
「それまで私が愚痴を聞き続けることになるのだけど?」
「仕方ないだろ」
「あなたがダンジョンマスターでしょう?」
「だからって、冒険者一人のために攻略難易度を下げるわけにはいかない」
「そう」
セレスティアは紅茶を一口飲んだ。
そして、少し考える。
「……魔法防御が付与された大楯をくれない?」
「大楯?」
「ええ」
「ボスを倒してたら、いつか落とすよ」
「いつかって、いつ?」
「知らない」
「それまで私にずっと愚痴を聞けと言うの?」
「だから仕方ないだろ」
アレンは完全に他人事だった。
セレスティアはそんなアレンをじっと見つめる。
「……」
「なんだ?」
「アレン」
「ん?」
「リリアの体の特徴は?」
「引き締まった肉体美」
「…………」
「…………」
一瞬、部屋の空気が止まった。
アレンも、セレスティアも動かない。
数秒後。
アレンの顔から、ゆっくりと血の気が引いていった。
セレスティアがゆっくりと紅茶のカップを置く。
「大楯、用意できる」
「勿論?」
「勿論だ」
アレンは即答した。
「魔法防御付きで?」
「付ける」
「ちゃんと騎士団で使えるものを?」
「用意する」
「いつ?」
「後日」
セレスティアは満足そうに微笑んだ。
「ありがとう、アレン」
「……」
アレンは思った。
これは負けだ。
後日。
リリアの元に、一枚の大楯が届いた。
「これは?」
リリアは目の前に置かれた大楯を見つめる。
立派な大楯だった。
しかも、魔法防御まで付与されている。
「私に?」
届けに来た者から説明を受ける。
「はい。ダンジョンからの贈り物だそうです」
「ダンジョンから……?」
リリアは首を傾げた。
ダンジョンに気に入られた冒険者に、洋服や便利な道具が届くことがある。
それは知っている。
実際、そうした品を受け取った者もいる。
しかし――
「なぜ大楯なんだ?」
リリアにはさっぱり分からなかった。
「私が欲しいと言ったことはないのだが……」
大楯を持ち上げる。
ずっしりとした重量。
これなら三十七階層でも役に立ちそうだ。
「……ありがたく使わせてもらおう」
一方その頃。
アレンはマスタールームで、深いため息をついていた。
「……俺、もうセレスティアには変なことを答えないようにしよう」
だが、次に会ったときにはまた何かしらカマをかけられるのだろう。
そして自分は、また引っかかる。
そんな予感しかしなかった。




