サーモンピンク
アレンは執事の格好で、ダンジョンランドへ向かっていた。
セレスティアに呼び出されたのだ。
今日は貴族の日だったため、普段ならアレンが中へ入ることはできない。
しかし、入口の受付まで来ると、すんなり通された。
「……入れるのか?」
「はい。セレスティア様から、アレン様が来られることは伺っております」
「なるほど」
どうやらセレスティアが事前に伝えていたらしい。
アレンはそのままダンジョンランドの中へ入った。
そして、しばらく歩いたところでセレスティアを見つけた。
隣にはフローラとクラリスがいる。
「セレスティア」
「あら、来たのね」
「俺は何で呼び出されたんだ?」
「クラリスとも顔合わせをしておいてほしかったの」
セレスティアがクラリスを見る。
「こちらがアレンよ」
「初めまして、クラリスです」
「アレンだ。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
クラリスは丁寧に頭を下げた。
「それから」
セレスティアがアレンを見る。
「今日はメイドに混ざって給仕しなさい」
「……俺、執事なんだけど」
「似たようなものでしょう?」
「全然違うぞ」
「いいから」
「……まあ、いいけど」
結局、アレンはメイドたちに混ざって給仕をすることになった。
しばらくすると、セレスティアが楽しそうに言った。
「アレンも一緒に遊びましょう」
「俺も?」
「ええ」
こうしてアレンは、セレスティア、フローラ、クラリスに付き添ってダンジョンランドを回ることになった。
最初に乗ったのはジェットコースターだった。
「これがジェットコースターですか?」
クラリスは目を輝かせている。
「そうよ」
四人で乗り込む。
そして発車。
「きゃああああ!」
クラリスの声が響く。
アレンも思わず笑ってしまう。
「……そういえば」
降りたあと、アレンはふと気づいた。
「俺も乗るの初めてだったな」
ダンジョンランドを作ってから、管理する側として何度も見てきた。
しかし、自分で遊ぶ機会はほとんどなかった。
次は観覧車。
ゆっくりと上がっていくゴンドラから、ダンジョンランド全体を見渡す。
「綺麗……」
クラリスが窓の外を眺める。
「こんな景色、初めて見ました」
「ダンジョンの中から見る町も悪くないでしょう?」
セレスティアが笑う。
「はい!」
その後も四人は遊び続けた。
迷路。
ボーリング。
ダーツ。
映画館。
クラリスは何を見ても楽しそうだった。
「これも面白いです!」
「こっちはどう?」
「やってみたいです!」
クラリスの笑顔が眩しい。
アレンはそんなクラリスを見ながら、少しだけ思った。
――この町を作ってよかったのかもしれないな。
もっとも、本人はそんな感傷に浸る暇もなく、次の遊びへ連れていかれることになった。
温泉とエステは、今回は入れなかった。
「残念ですね」
クラリスが少し残念そうにする。
「そこはまだ男女の扱いをどうするか決めていないからな」
アレンはそう答えた。
「混浴文化を広めるという手もあるけど……」
「それは後で考えましょう」
セレスティアが話を切り上げる。
そして最後に向かったのは、お化け屋敷だった。
「大丈夫です!」
入る前、クラリスは胸を張っていた。
ところが。
「きゃっ!」
暗闇から突然何かが飛び出す。
「ひっ!」
クラリスが驚き、思わずアレンに抱きついた。
「……」
アレンは固まった。
クラリスも自分が何をしたのか気づいたのか、慌てて離れる。
「す、すみません!」
「いや……大丈夫」
アレンは平静を装った。
内心では、
――役得だな。
などと思っていた。
お化け屋敷を出ると、セレスティアがクラリスとフローラを見る。
「今日はここまでにしましょう」
「もうですか?」
クラリスが残念そうにする。
「ええ。二人は先に帰っていて」
「分かりました」
セレスティアは二人を見送る。
二人の姿が見えなくなったところで、セレスティアはアレンをみる。
「アレン、少し残って」
「……なんだ?」
「ピーちゃん、元気そうだ」
「ピー」
ピーちゃんはセレスティアを見ると、嬉しそうに鳴いた。
「私に懐いてるわ」
「そうみたいだな」
セレスティアはピーちゃんを撫でながら、ふと思い出したようにアレンを見る。
「そういえば、あなたにお願いがあるの」
「嫌な予感しかしないんだが」
「クラリスにも車を用意して」
「また?」
「私が用意できると言ったのよ」
「用意して、ってことか」
「ええ」
「遠慮がなさすぎるぞ……」
アレンが思わず苦笑いを浮かべると、セレスティアはフッと不敵な笑みを口元に浮かべた。
そして、至近距離からアレンの目を真っ直ぐに見つめ、信じられない質問を投げかけてきた。
「……ねえ、アレン。クラリスの乳首の色、何色だった?」
「――サーモンピンク」
思考を経由せず、脳内の観察データがコンマ一秒で反射的に口から飛び出した。
「……………………………………」
静寂が二人を包み込む。セレスティアは無言のまま、氷のように冷たく、けれどどこか楽しげな瞳でアレンをじっと見つめた。
「……………………………………車、用意できるわね?」
「……勿論、完璧な一台をご用意させていただきます」
アレンは一切の迷いなく即答した。セレスティアはフンと鼻を鳴らすと、髪を軽くかき上げた。
「私は……見てないわよね?」
「最近は見てないよ」
「……………………………………感想言ったら、殺すわよ」
「……勿論です。深く胸に刻んでおきます」
夕闇の中、アレンは深々と頭を下げた。
アレンはため息をついた。
どうやら俺は、ますますセレスティアに逆らえなくなっているらしい。
そして何より――
さっきの件について、セレスティアがどこまで気づいているのか。
それだけが怖かった。




