クラリス到着
国境でクラリスを迎えたセレスティアは、ロールスロイスに乗り込んだ。
クラリスも隣に乗り込む。
「では、帰りましょうか」
「はい!」
車が国境を離れ、ダンジョンの町へ向かって走り出す。
クラリスは、走り始めた車に驚いていた。
「本当に馬がいないのですね」
「ええ。これが車よ」
「こんなに速く走るのに、馬が必要ないなんて……」
クラリスは窓の外を眺める。
国境から続く街道は、以前よりもずっと走りやすくなっていた。
「道も綺麗ですね」
「そうね」
「以前はもっと酷かったと聞いています」
「王妃様が外国にインフラ整備を頼んでいるから、その成果でしょうね」
「外国にまで……」
クラリスは驚いた。
「ダンジョンから得られるものが、それだけ大きいということですか?」
「ええ。お金だけじゃないわ。道路や橋が整備されれば、人も物も動きやすくなるもの」
セレスティアは窓の外を見る。
「実際、以前より商人も増えたわ」
そのまま車は街道を進んでいく。
途中、何度か町を通過する。
クラリスはそのたびに窓の外を眺めていた。
「……ところで」
「何?」
「国境からここまで、魔物が一度も出ませんね」
「そうね」
「これだけ長い距離を走っているのに?」
「運がいいのでしょう」
セレスティアは気にしていない。
誰も気づいていなかった。
車の近くにいるピーちゃんを恐れ、魔物たちが道を避けていることを。
やがて、遠くに巨大なダンジョンが見えてきた。
「……あれが?」
「そう。ダンジョンよ」
クラリスは目を見開く。
ダンジョンの周囲には、巨大な町が広がっている。
「ダンジョンの前にも町があるのですか?」
「ええ」
車はそのまま町へ入っていく。
商店が並び、冒険者が歩き、馬車や車が行き交っている。
宿泊施設もあれば、商人たちの店もある。
「ここがダンジョンの前の町よ」
「……すごい」
「ここは外側の町ね」
「外側?」
クラリスが首を傾げる。
セレスティアは笑った。
「本当の町は、ここから先よ」
「え?」
セレスティアは車を進ませる。
そしてダンジョンの入口へ向かった。
クラリスは少し緊張した様子で入口を見る。
「ここからダンジョンに入るのですか?」
「そうよ」
「私も?」
「もちろん」
車がダンジョンの中へ入っていく。
しばらく進む。
すると、クラリスの目の前に、また別の町が現れた。
「……え?」
クラリスは固まった。
目の前に広がっていたのは、ダンジョンの中に存在する巨大な町だった。
建物が並んでいる。
人が歩いている。
店もある。
宿泊施設もある。
道路まで整備されている。
「……ダンジョンの中、ですよね?」
「そうよ」
「町がありますけど?」
「町だからね」
「……」
クラリスは言葉を失った。
セレスティアはそんなクラリスを見て笑う。
「ここが私たちの住んでいる町よ」
「ダンジョンの中に……町を作ったのですか?」
「そういうこと」
車は町の中を進んでいく。
クラリスは左右を見ながら、何度も驚く。
冒険者だけではない。
住民もいる。
店もある。
働いている人もいる。
普通の町と変わらない。
いや、クラリスが今まで見てきた町よりも整っている部分すらある。
「ここで普通に生活しているのですか?」
「ええ」
「ダンジョンの中で?」
「そうよ」
「……信じられません」
「慣れるわよ」
セレスティアは平然としている。
やがて車は町の住宅地へ向かう。
「ここからがあなたの家よ」
「私の?」
「ええ」
車が止まる。
クラリスが降りる。
目の前には、フローラの家と同等の立派な家が建っていた。
「……」
クラリスはしばらく動かなかった。
「これが……私の家?」
「そうよ」
「留学に来ただけなのですが……」
「ここで暮らすのでしょう?」
「はい……」
「だったら家が必要でしょう?」
クラリスは屋敷を見上げる。
「……すごい」
セレスティアはそのまま家の中へ案内する。
「中も見てみましょう」
玄関を入り、居間、寝室、浴室、キッチンと案内していく。
そして最後にキッチンへ入る。
「ここからが、この家の面白いところよ」
「?」
「家電を説明するわ」
「家電?」
セレスティアが冷蔵庫を開ける。
「これが冷蔵庫」
「冷たい!」
クラリスが思わず声を上げた。
「食べ物を冷やして保存できるの」
次に電子レンジ。
「これは料理を温めるもの」
「火を使わずに?」
「ええ」
さらに炊飯器。
洗濯機。
掃除機。
ドライヤー。
クラリスは一つ説明されるたびに目を丸くしていく。
「洗濯まで自動なのですか?」
「そうよ」
「掃除も?」
「掃除機を使えば簡単よ」
「髪まで乾かせる……」
クラリスは完全に圧倒されていた。
国境からここまで来るだけでも、車、整備された道路、ダンジョン前の町、そしてダンジョンの中にある町。
そして最後に、自分の家にある見たこともない家電。
驚きっぱなしだった。
「お姉さま……」
「何?」
「私、今日一日で何回驚いたのでしょう?」
「数えていたの?」
「途中から数えるのを諦めました」
セレスティアは笑う。
「まだ見ていない場所もたくさんあるわよ」
「……まだあるのですか?」
「ええ」
クラリスは家の中を見回す。
そして、小さく呟いた。
「……本当に帰りたくなくなりそうです」
「だから言ったでしょう?」
セレスティアは楽しそうに笑った。
そしてクラリスは、この日初めて知った。
自分が留学する場所は、普通の国の町ではない。
ダンジョンそのものが、一つの巨大な生活圏になっているのだ。




