化粧品外交
「アレン、いつもと違う軍隊が来てるよ」
「ほんとだ。見てみよう」
アレンは魔道具を操作して、ダンジョンの入口を映し出した。
そこには、いつも来ている騎士団とは違う部隊が集まっていた。
「見たことない騎士団だな」
「隣領の騎士団みたい」
「隣領からわざわざ来たのか」
アレンはしばらく様子を眺める。
すると、隊長らしき男が部下たちを集めて話し始めた。
「負けるわけにはいかない」
「何がですか?」
「化粧品だ」
「化粧品?」
「隣領の領主が、ダンジョンから持ち帰った化粧品を外交に使い始めたらしい」
「外交にですか?」
「ああ。貴族への贈り物として使っているそうだ」
「なるほど」
「それを奥様が知った」
アレンは画面を見ながら首を傾げた。
「なるほど。そういうことか」
最初に来た騎士団が持ち帰った化粧品を、領主が外交の道具として使い始めた。
それを隣領の貴族が知り、こちらも負けていられないと騎士団を送り込んできたらしい。
「負けるわけにはいかない」
隊長が改めて部下たちに告げる。
「化粧品以外は全て交換してでも、一つでも多く持ち帰るぞ」
「隊長」
「なんだ?」
「酒がすっごくおいしいらしいです」
「……」
「酒だけは勘弁してもらえませんか?」
「一人一本だけ許可する」
「ありがとうございます!」
「ただし一本だけだぞ」
「了解です!」
「化粧品が最優先だからな」
「分かっています!」
隊長は呆れながら、別の部下を見る。
「それと、文官を一人連れて来ている」
「文官を?」
「護衛しろ」
「何のためですか?」
「ガチャから出た物の統計をとるためだ」
「統計ですか?」
「何がどれくらい出るのか記録して、必要な人数や期間を割り出すためだ」
「奥様、本気ですね」
「ああ。隣の領地には負けたくないらしい」
「相手の領地が先に気づいて部隊を投入しているから、中で鉢合わせますよ」
「相手の隊長とは交流がある。心配はいらない」
「そうですか」
部下は少し考える。
「下手したら、まだ増えるかもしれませんよ?」
「このダンジョンからしか出ないんだから仕方ない」
「冒険者で需要を満たせないんですかね?」
「ダンジョン前の店で買われて、王都に送られるらしい」
「町にも出回ってないらしいですね」
「ああ」
「こりゃ大変だ」
そんな話をしながらも、騎士団は迷うことなくダンジョンへ入っていった。
今回の部隊は、最初から長期滞在を想定して準備している。
十階層までは順調に進み、さらに奥へ向かう。
「十一階層への階段だ」
「予定通りですね」
隊長は頷いた。
「ここからが本番だ。準備を確認しろ」
部下たちが荷物を確認していく。
「食料は十分あります」
「水も問題ありません」
「野営道具もあります」
「よし」
今回の部隊は、食料をダンジョンのガチャに頼るつもりがなかった。
必要な物資は自分たちで用意してきている。
「十一階層を主戦場にする」
隊長が全員に告げる。
「十階層までは通過するだけでいい。ここから先で魔石とガチャから出る品を集める」
「了解!」
隊長は文官を見る。
「お前も十一階層まで来てもらうぞ」
「もちろんです」
文官は記録用の道具を確認する。
「ガチャから出た物は、その場で種類と数量を記録します」
「ああ」
「化粧品だけではなく、全て記録します。排出率を調べるためです」
「頼んだぞ」
「必要な人数や滞在期間も、集めたデータから算出します」
「それが今回の目的だからな」
騎士団は十一階層への階段を下りていく。
文官も同行する。
十一階層に到着すると、隊長が周囲を確認した。
「ここを主戦場にする」
騎士たちは荷物を降ろし、野営の準備を始めた。
食料も水も自前で用意している。
短時間で帰るつもりはない。
「これなら長期間の探索もできますね」
文官が記録用紙を取り出す。
「ああ。そのために準備してきた」
隊長は十一階層の奥を見た。
「目的の品を一つでも多く持ち帰るぞ」
「了解!」
騎士団は十一階層を拠点に、探索を開始した。
その様子を見ていたアレンは、魔道具の映像を眺めながら呟いた。
「食料まで自前で用意してきたか」
「長期滞在する気満々だね」
「ああ。十一階層を本気で使うつもりみたいだ」
アレンは騎士団の姿を眺める。
「これは十一階層が一気に賑やかになりそうだな」




