セレスティアの存在感
王妃様は基本的に屋敷からは出なかった。
もちろん、何もしていないわけではない。
王妃様に会うために、毎日のように来客があるからだ。
貴族が訪れることもあれば、商人や町の有力者が訪れることもある。
王妃様のもとを訪ねてくる者は多く、わざわざ王妃様が町へ出向く必要はなかった。
一方、セレスティアはよく外出していた。
「今日も出かけるのですか?」
「ええ。商人組合との会合がありますの」
セレスティアはそう言って、ロールスロイスに乗り込んだ。
低速で走るロールスロイスが、ゆっくりと町を進んでいく。
セレスティアが町へ出る機会は、日に日に増えていた。
商人組合。
漁業組合。
林業組合。
鉱山組合。
職人組合。
セレスティアは、それぞれの組合の会合に参加していた。
単に顔を出すだけではない。
現場で何が起きているのか。
何に困っているのか。
これから何が必要なのか。
セレスティアは組合の人間から直接話を聞いていた。
「最近は商品の流通量がかなり増えています」
商人組合の会合では、商人たちの話を聞く。
「それなら、輸送のほうは問題ありませんの?」
「そこが少し問題でして……」
「分かりました。そちらについても考えておきましょう」
別の日には漁業組合へ行く。
「最近は漁獲量も増えております」
「それはよかったですわ」
「ですが、保存や運搬のほうが追いつかなくなりそうでして」
「必要なものを整理しておいてください。こちらでも確認しますわ」
林業組合では木材の話を聞き、鉱山組合では鉱石について話を聞く。
職人組合では、職人たちが何を必要としているのかを聞く。
セレスティアは、それぞれの組合の話を聞きながら、組合同士の話を繋ぐこともあった。
そのため、町の人々にとってセレスティアは、ただの公爵令嬢ではなくなっていった。
「セレスティア様!」
町を歩いていると、声をかけられる。
「今日はどちらへ?」
「職人組合へ向かいますの」
「この前はありがとうございました!」
「お気になさらず」
そんなやり取りも珍しくなくなった。
冒険者たちからも声をかけられる。
「セレスティア様!」
「どうしましたの?」
「三十階層から先の攻略についてなんですが……」
「ええ。聞かせてくださいな」
セレスティアは冒険者の話にも耳を傾ける。
ダンジョンに挑む冒険者たちにとっても、セレスティアは身近な存在になっていた。
そして、町でのセレスティアの存在感は大きくなる一方だった。
王妃様は基本的に屋敷から出ない。
王妃様に会いたければ、屋敷を訪ねることになる。
それに対してセレスティアは、頻繁に町へ姿を見せる。
商人と話す。
職人と話す。
漁業関係者と話す。
林業関係者と話す。
鉱山関係者と話す。
そして冒険者とも話す。
自然と、平民や冒険者にとってセレスティアは身近な存在になっていった。
「王妃様はあまり町では見かけないな」
「まあ、王妃様だからな」
「でもセレスティア様ならよく見るぞ」
「この前も商人組合に来ていたな」
「昨日も町にいたぞ」
そんな会話が町のあちこちで交わされるようになった。
もちろん、王妃様とセレスティアの立場が競い合っているわけではない。
王妃様には王妃様の役割がある。
そしてセレスティアには、セレスティアの役割がある。
むしろ二人は、それぞれ違う場所で国を支えていた。
王妃様は屋敷で人々を迎える。
セレスティアは町へ出て、人々の話を聞く。
その積み重ねによって、セレスティアの存在は国内でも大きくなっていった。
公爵令嬢としての身分だけではない。
ダンジョンとの関係。
町での活動。
各組合との交流。
そして、実際に人々の前へ姿を見せていること。
そうしたものが積み重なっていく。
いつしか国内では、セレスティアが次期王妃になることに異論を唱える者はほとんどいなくなっていた。
誰かに王妃になることを押しつけられているわけではない。
セレスティア自身が、町の中で存在感を築いていたのだ。
今日もセレスティアはロールスロイスに乗って町を走る。
「次は鉱山組合ですわね」
「はい」
車はゆっくりと町を進んでいく。
町の人々は、今日もセレスティアの姿を見ていた。
王妃様が屋敷にいる一方で、セレスティアは今日も町にいる。
そしてセレスティアの存在感は、日を追うごとに大きくなっていた。




