リリアの挑戦
アレンはダンジョンの様子を眺めていた。
リリアがこの区画に移り住んでから、ダンジョンの中は少し騒がしくなった。
彼女は自分の騎士団のメンバーを定期的に入れ替えながら、この区画を拠点にして訓練を続けていた。
そして、その様子を見ていたアレンは――。
「……なるほど」
リリアが風呂場を使っていることを確認した。
「鍛えてるだけあって、引き締まってるな」
アレンはしばらく眺めていた。
セレスティアが以前リリアに言った忠告。
――いつか、誰に見られているか分かりませんよ。
その忠告は、まったく意味を成していなかった。
「いや、待て」
アレンは自分の中で理屈を組み立て始める。
「そもそも、覗くなとは言われてない」
誰にも言われていない。
「それに、この建物が建てられたのは、禁止された後だ」
アレンは腕を組む。
「つまり、禁止された時点では存在していなかった建物だ」
少し考える。
「なら、この建物は対象外だな」
完全に屁理屈だった。
アレンは満足そうに頷いた。
「よし」
何がよしなのかは分からない。
一方、リリアはそんなことを知る由もなく、訓練を続けていた。
彼女の目標は明確だった。
三十七階層。
そこに待ち構える存在を、自分たちの力で突破する。
父親の力を借りるつもりはない。
貴族としての立場を利用して、誰かに道を開けてもらうつもりもなかった。
自分の力で到達する。
そのために、リリアは騎士団のメンバーを定期的に入れ替えていた。
同じ相手とばかり訓練していては、実戦に対応できない。
様々な能力を持つ騎士を集め、それぞれの組み合わせを試す。
前衛。
後衛。
魔法使い。
回復役。
盾役。
そしてリリア自身。
訓練にはかなり気合が入っていた。
「もう一度!」
「はい!」
何度も繰り返す。
しかし、訓練だけでは埋められないものもある。
相性だ。
どれだけ鍛えても、相手との能力の噛み合わせによっては不利になる。
特に三十階層以降は、それが顕著だった。
だから現在のリリアたちは、三十階層から三十六階層を定期的に周回していた。
そこで得られる装備を集める。
装備を更新する。
戦い方を試す。
そして、また挑戦する。
まだ三十七階層へ挑む段階ではない。
だが、確実に近づいている。
そんな中で、リリアが最も期待されている役割がある。
「リリアを守れれば……」
騎士の一人が呟く。
リリアには、一撃必殺とも言える強力な魔法がある。
問題は、その魔法を使うまで彼女を守り切ること。
それさえできれば、戦況を一気に変えられる。
だからこそ、今のリリアたちが一番欲しがっている装備があった。
「魔法を防げる大楯が欲しい」
リリアが言う。
普通の盾では足りない。
魔法を受け止められる盾。
それがあれば、前衛の役割が大きく変わる。
「ダンジョンの装備なら、いつか出てくるかもしれません」
「ええ」
リリアは頷いた。
「だから、もっと集めるわよ」
三十階層。
三十一階層。
三十二階層。
そして三十六階層。
リリアたちは何度も挑戦を繰り返す。
目標は三十七階層。
自分たちの力で、そこへ到達するために。
その様子を眺めながら、アレンは思った。
「……大楯か」
リリアたちが欲しがっているものは、アレンにとってはそれほど難しいものではない。
だが――。
「簡単に渡すのも面白くないな」
アレンは少し考える。
そして、また余計なことを思いつき始めた。




