ピーちゃん
アレンのもとに、セレスティアから連絡がきた。
『会いたいのだけれど』
どうやら、以前アレンがセレスティアに渡した携帯電話を使っているらしい。
ダンジョンに住んでいるセレスティアとは、いつでも会おうと思えば会える。
それでもわざわざ携帯で連絡してくるあたり、何か話があるのだろう。
アレンは指定された10階層のボス部屋へ向かった。
しばらくすると、セレスティアがやってきた。
「今日はどうした?」
「あなたに伝えたいことがあったの」
「なんだ?」
セレスティアは少しだけ得意げな顔をすると、アレンに告げた。
「王国の窓口は私になったわ」
「王妃様じゃなく?」
「ええ。これからは私に言いなさい」
アレンは少し考えた。
王妃とのやり取りが減るなら、それはそれで楽かもしれない。
「別にいいけど、それだけか?」
「もちろん、それだけではないわ」
やっぱり何かあるらしい。
セレスティアは笑顔のまま続けた。
「王妃様の住居エリアを、私の好きにさせなさい」
「どうする気だ?」
「私の切り札にするわ」
アレンはセレスティアの顔を見る。
何をするつもりなのかは分からない。
ただ、セレスティアが何かを企んでいることだけは分かった。
「住居エリアは好きにしていいが、建物は建てないぞ」
「それでいいわ」
妙にあっさりしている。
アレンは少し嫌な予感がした。
そして、その予感はすぐに的中した。
セレスティアの視線が、アレンの肩へ向いた。
「ところで……肩にとまってる鳥、かわいいわね」
アレンの肩には、小さくなったフェニックスがとまっていた。
見た目だけなら、どこにでもいそうなインコにしか見えない。
「いいだろ。ピーちゃんだ」
「ピーちゃん……」
セレスティアはピーちゃんをじっと見つめる。
ピーちゃんは首を傾げた。
「欲しいわね」
「……あげないよ」
即答だった。
「どうしても?」
「どうしても」
「どうしても?」
「どうしても」
セレスティアは少し考えた。
そして、とんでもない提案を口にした。
「王妃様の風呂場を解禁しても?」
「…………………………………」
アレンの動きが止まった。
セレスティアはその反応を見逃さなかった。
「考えたわね」
「無理です」
アレンは何とか平静を装った。
だが、セレスティアは諦めない。
「フローラの風呂場もつけるわ」
「…………………………………」
また沈黙。
今度はさっきより長かった。
セレスティアはニヤリと笑った。
「考えたわね」
「ソンナコトナイデス」
「そう?」
「そうです」
アレンは必死に視線を逸らす。
しかし、セレスティアは完全にアレンの弱点を理解していた。
「王妃様に言うわよ」
「勘弁してください」
「くれるわよね?」
「…………………」
アレンは答えなかった。
答えられなかった。
ピーちゃんを見る。
ピーちゃんは何も知らず、アレンの肩の上で首を傾げている。
「ピー……」
「…………」
アレンは黙ったままだった。
セレスティアはそんなアレンを見て、満足そうに微笑んだ。
「では、もらってくわね」
「え?」
セレスティアはピーちゃんを抱き上げる。
ピーちゃんも特に抵抗することなく、セレスティアの腕へ移った。
「ピー」
「お前も行くのか……」
アレンは呆然とその様子を見ていた。
セレスティアはピーちゃんを連れて、そのままボス部屋を出ていく。
住居エリアも同じダンジョン内だ。
わざわざ遠くまで連れていく必要すらない。
「ピーちゃん、今日からよろしくね」
「ピー!」
セレスティアとピーちゃんの姿が遠ざかっていく。
アレンは何も言えなかった。
そして一人になったボス部屋で、ようやく呟いた。
「……風呂場二つは反則だろ」
こうして、アレンの新しい最強モンスターは、誕生して間もなくセレスティアに奪われたのだった。




