鳳凰の強さ
アレンは目の前の鳳凰を眺めていた。
先ほどまで巨大な身体をしていたとは思えないほど、今は小さい。
真っ赤な羽根も、鋭い爪も、立派な翼も健在だ。
ただし、身体の大きさだけはインコほどしかない。
「ピー」
鳳凰はアレンの足元を歩き回っている。
アレンがしゃがむと、鳳凰もアレンの顔を見上げた。
「ピー」
「お前、本当に鳳凰なんだよな?」
「ピー」
「……まあ、ダンジョンコアがそう言ってるんだから間違いないか」
アレンは鳳凰を指差した。
「ところで、こいつ強いのか?」
『確認します』
ダンジョンコアが鳳凰の解析を始める。
アレンは結果が出るのを待つ。
クロノスも気になったのか、鳳凰をじっと見ていた。
しばらくして、ダンジョンコアが答える。
『ランクEXです』
「EX?」
アレンは聞き返した。
このダンジョンで確認されているモンスターの中でも、EXというランクはほとんど聞くことがない。
「クロノスと同格だ」
「……」
クロノスが固まった。
アレンは鳳凰を見る。
そしてクロノスを見る。
「俺にはインコにしか見えんが強いのか?」
「強いに決まっておる!」
クロノスが即座に反応した。
「伝承に出てくる全ての鳥類の頂点じゃぞ!」
「そうなんだ」
アレンはもう一度鳳凰を見る。
「ピー」
鳳凰は何も知らないように鳴いた。
「……」
やっぱりインコにしか見えない。
「それなら護衛に最適だな」
「何?」
クロノスの顔が引きつった。
「護衛?」
「そう」
アレンは頷いた。
「俺の護衛でもいいし、ダンジョンの護衛でもいい」
「いや、待て」
クロノスがアレンを止める。
「我を使役できるだけで規格外なのに、お主はおかしいのじゃ」
「そうか?」
「そうじゃ!」
クロノスは鳳凰を指差した。
「こやつは我と同格なのじゃぞ!」
「だから頼りになるんだろ」
「そういう問題ではない!」
「ダンジョンが強くなっていいことじゃないか」
「過剰戦力なのじゃ!」
クロノスは頭を抱えた。
「そもそも、我がおるだけでも十分すぎるのじゃぞ!」
「でもクロノスがダンジョンにいない時もあるだろ」
「……」
「その時に何かあったら困る」
「それはそうじゃが……」
「だから鳳凰がいれば安心だ」
アレンは満足そうに頷いた。
「クロノスが外に出ている時も、こいつがダンジョンを守ってくれる」
「……まあ、それなら理屈は分かる」
クロノスは渋々頷いた。
「だが、問題はそこではない」
「何が?」
「お主がその先に何を考えているのかじゃ」
「何も?」
「嘘をつくな」
クロノスが睨む。
「強力なモンスターを手に入れて、ただ護衛にするだけのお主ではないじゃろ」
アレンは少し考える。
「まだ構想でしかないから言わないよ」
「……」
クロノスの表情が変わった。
「構想?」
「うん」
「何の構想じゃ?」
「まだ決まってない」
「なら考えるな」
「でも面白そうだから」
「やめておけ!」
クロノスが珍しく強い口調で止める。
「何をするつもりか知らぬが、我には嫌な予感しかせんぞ」
「大丈夫だって」
「その言葉を何度聞いたと思っておる!」
「そんなに信用がないのか?」
「ない!」
即答だった。
アレンは少し傷ついた顔をする。
「ひどいな」
「今までのお主の行動を考えてみよ」
「ダンジョンを大きくした」
「うむ」
「冒険者が増えた」
「うむ」
「町ができた」
「うむ」
「王妃様までダンジョンに住むようになった」
「……うむ」
「だから今回もダンジョンのためだ」
「それが怖いと言っておるのじゃ!」
クロノスは深いため息をついた。
「お主はダンジョンのためと言えば何でも許されると思っておらんか?」
「そんなことはないぞ」
「なら、何を考えておる?」
「まだ言わない」
「……」
クロノスは黙り込んだ。
「一生言わないでくれ」
「そんなに嫌なのか?」
「お主が考えることは、だいたい後で我の仕事になるのじゃ」
「それはクロノスが優秀だからだろ」
「褒めても誤魔化されんぞ!」
アレンは笑った。
その横では、鳳凰が二人のやり取りを眺めている。
「ピー」
「お前は気楽でいいな」
アレンが鳳凰に話しかける。
鳳凰は首を傾げる。
「ピー」
「そうかそうか」
「何がそうかなのじゃ……」
クロノスは呆れながら鳳凰を見る。
EXランク。
自分と同格。
しかも伝承に残る、全ての鳥類の頂点。
そんな存在が、今はインコほどの大きさになってアレンの足元を歩いている。
「……本当に恐ろしいダンジョンになったものじゃ」
クロノスが呟く。
アレンはそれを聞いて笑った。
「強くなっていいことじゃないか」
「だから過剰戦力だと言っておる!」
「まあ、細かいことはいいだろ」
「細かくない!」
クロノスの叫び声がダンジョン内に響き渡る。
鳳凰はそんな二人を眺めながら、
「ピー」
と一声鳴いた。
こうしてダンジョンには、クロノスと同格のEXランクモンスターが加わった。
ただし、今のところ鳳凰ができることは――
「ピー」
と鳴くことだけだった。




