卵の孵化
アレンは毎日、卵がいつ孵化するのか楽しみにしていた。
朝になると卵を見る。
昼になっても卵を見る。
夜になっても卵を見る。
しかし、卵は何も変わらない。
「一日」
そして、また一日。
「また一日……」
日にちだけが過ぎていく。
クロノスは相変わらず卵を温め続けていた。
最初は文句を言っていたクロノスも、今ではすっかり卵を温めることに慣れている。
ただし、本人はその事実を認めようとはしなかった。
「ダンジョンコア」
『はい』
「いつ孵化するんだ?」
『分かりません』
「待ちきれないぞ」
『そう言われましても』
アレンは卵をじっと見る。
何日経っても、見た目には何の変化もない。
「本当に孵化するのか?」
『はい。卵から感じる魔力は、日々増えています』
「じゃあ、いつか孵化するんだな?」
『はい。いつか孵化します』
「いつかっていつだよ!」
『私にも分かりません』
「それじゃ困るんだよ」
アレンは腕を組んだ。
「もっと早く孵化する手段はないのか?」
『ダンジョンポイントを使って魔力を供給すれば、孵化が早まる可能性があります』
「それだ!」
アレンの顔が明るくなる。
その横で卵を温めていたクロノスが嫌な顔をした。
「……我は嫌な予感しかしないぞ」
「大丈夫だって」
「お主がそう言うときは、ろくなことにならん」
アレンは気にせず、ダンジョンのパネルを操作する。
「まずは10ポイント」
卵に魔力が流れ込む。
しかし――
何も起きない。
「変化なし」
「次は100」
何も起きない。
「1000」
まだ変化はない。
クロノスが呆れたように卵を見る。
「だから言ったであろう」
「まだ分からないだろ」
アレンはさらにポイントを投入する。
「10000!」
卵に大量の魔力が流れ込む。
しかし、卵は沈黙したままだ。
「……まだ孵化しない」
「十分ではないのか?」
クロノスが少し期待したように言う。
「まだだ」
アレンはパネルを見る。
そして、さらに数字を入力しようとする。
「次は――」
「待つのじゃ!」
クロノスが慌てて止める。
「それ以上はやめておけ!」
「なんで?」
「我には嫌な予感しかせん!」
「大丈夫だって」
「お主の大丈夫ほど信用できぬものはない!」
アレンはクロノスの制止を聞き流した。
「100000!」
その瞬間だった。
ピシッ。
「ん?」
卵に、小さなヒビが入った。
「おお!」
ピシッ、ピシッ。
ヒビが広がっていく。
クロノスも卵から離れずに見つめる。
「ついに来たか……」
さらに大きな音が響いた。
パキンッ!
卵の殻が割れる。
中から現れたのは――
真っ赤な羽根。
そして、燃えるような魔力。
「これは……」
ダンジョンコアが解析する。
『鳳凰です』
「鳳凰!」
アレンの目が輝いた。
伝説の魔物。
しかもダンジョンエラーから生まれた存在だ。
「すごいな!」
しかし――
鳳凰は想像以上に大きかった。
翼を広げれば、ボス部屋のかなりの面積を占領してしまう。
「……でかいな」
鳳凰が首を傾げる。
「もっと小さくなれ」
アレンが命令した。
すると鳳凰の身体がみるみる縮んでいく。
大きな翼も、立派な身体も、どんどん小さくなっていく。
そして――
最終的には、インコほどの大きさになった。
「……」
クロノスが絶句する。
「……」
アレンも少し黙る。
目の前には、真っ赤な羽根を持つ小さな鳳凰。
どう見ても、伝説の魔物には見えない。
アレンは鳳凰を見つめた。
「今日からよろしくな」
鳳凰は首を傾げる。
そして――
「ピー」
「……」
アレンは固まった。
クロノスも固まった。
「会話は無理だったか」
「ピー」
「まあ、これからだな」
「ピー」
こうして、ダンジョンに新たな住人が加わった。
史上最強クラスの存在になる可能性を秘めた鳳凰。
ただし今のところは――
インコサイズで「ピー」と鳴くだけだった。




