ダンジョンエラー
アレンはダンジョンの中をモニターで眺めていた。
特に目的があったわけではない。
暇だったので、ダンジョン内で何か面白いことが起きていないか確認していたのだ。
「ん?」
アレンの視線が止まった。
ある階層の隅。
そこには、一つの卵が落ちていた。
「なんだあれ?」
アレンはダンジョンコアに尋ねる。
「ダンジョンコア、あの卵は何だ?」
『確認します』
しばらくして、ダンジョンコアが答えた。
『たまに発生するエラーによって生まれたものと思われます』
「エラー?」
『はい。モンスターを生成する際、何らかの理由で正常に生成されず、モンスターになり損ねた個体です』
「そんなことあるのか」
『極めて稀ですが、あります』
アレンはモニターに映る卵をじっと見つめる。
「どうなるの?」
『冒険者に発見され、割られた場合はそこでおしまいです』
「まあ、そうだよな」
ダンジョンの中に卵が転がっているのだ。
冒険者からすれば、何かのアイテムかもしれない。
面白半分に割られる可能性もある。
「割られなかったら?」
『そのうち孵化します』
「何が産まれるんだ?」
『今の時点では分かりません』
「分からない?」
『生成途中でエラーが発生した個体ですので、通常のモンスター生成のように種族を特定することができません』
アレンは卵を見つめた。
「ガチャみたいだな」
『ガチャ……?』
「何が出てくるか分からないってことだろ」
『その認識で問題ありません』
アレンは少しだけ楽しそうな顔をした。
「ただの卵なのに、何が出てくるか分からないのか」
『なお、過去の記録を確認したところ、ダンジョンエラーによって誕生したモンスターは、通常の生成個体よりも強い場合が多いようです』
「本当か?」
『はい』
アレンの目が輝いた。
「面白そうだ」
「この卵、回収しよう」
『承知しました』
ダンジョンコアが操作すると、卵がダンジョン内から回収される。
やがて、アレンの目の前に卵が現れた。
「さて、回収した卵はどうしたらいい?」
『温めてください』
「……温める?」
『はい。孵化するまで温める必要があります』
アレンは卵を見る。
そして、卵を温めるのに適した人物を考えた。
「よし」
アレンは頷いた。
「クロノス、任せた」
その瞬間。
近くにいたクロノスが固まった。
「……なぜ我が」
「鳥の専売特許だろ」
「我は鳥ではない!」
「ドラゴンだろ」
「ドラゴンと鳥を一緒にするな!」
クロノスが抗議する。
しかしアレンは気にしない。
「卵を温めるならクロノスが一番適任だ」
「どう考えてもおかしい!」
「温めるだけだぞ」
「我にそんなことを魔王でも言えんぞ!」
クロノスの威厳ある声がダンジョン内に響き渡る。
「いいから任せた」
「よくない!」
「ほら」
アレンは卵をクロノスの前に置いた。
クロノスは卵を見下ろす。
そしてアレンを見る。
もう一度、卵を見る。
「……本当に我がやるのか?」
「頼んだぞ」
「……」
クロノスはしばらく黙っていた。
そして諦めたように卵の前に座る。
「……今回だけだからな」
こうして――
ダンジョン史上、最強クラスのドラゴンが卵を温めるという、奇妙な光景が誕生した。




