クロノス
アレンはモンスターにいちいち名前を付けてはいなかった。
ゴブリンはゴブリン。
スライムはスライム。
わざわざ一体一体に名前を付ける必要もない。
だが、エンシェントドラゴンだけは別だった。
「エンシェントドラゴン」
呼ぶたびに、なんとなく長い。
「おい、エンシェントドラゴン」
「エンシェントドラゴン、今日はどうする?」
毎回これである。
それに、長い間ダンジョンに存在しているせいか、アレンにも少しずつ愛着が湧いていた。
勇者に倒されたこともあった。
その後、また配置し直した。
今ではダンジョンの重要な存在の一つになっている。
「……名前くらい付けてもいいか」
アレンはエンシェントドラゴンを眺める。
「よし、決めた」
アレンはエンシェントドラゴンに向かって告げた。
「お前の名前はクロノスだ」
その瞬間だった。
エンシェントドラゴンの身体が光り輝いた。
「え?」
アレンが目を見開く。
光はどんどん強くなり、エンシェントドラゴンの巨体を包み込んでいく。
そして、光が収まった。
「……何が起きた?」
アレンが確認すると、エンシェントドラゴンの表示が変わっていた。
名前の欄には――
クロノス
そして、その下には見慣れない表示が追加されている。
ネームド
「ネームド?」
アレンは詳しく確認する。
どうやら、名前を与えられたことで、エンシェントドラゴンがネームドとして認識されたらしい。
ネームドとは種族の名前ではない。
個として認識される存在。
同じエンシェントドラゴンという種族であっても、クロノスはただのエンシェントドラゴンではなく、唯一の個体として扱われるようになった。
そして――
「……強くなってる」
アレンはステータスを確認して固まった。
明らかに以前とは違う。
能力値が大幅に上昇している。
そしてランクの表示も変わっていた。
Ex
「……Ex?」
アレンはしばらく無言になった。
以前からエンシェントドラゴンは規格外だった。
勇者が一度倒すことができたのも、奇跡に近い。
それが今では、さらに別次元の存在になっている。
「…………」
アレンは勇者のことを思い出した。
以前、勇者はエンシェントドラゴンを倒した。
そして、もし再戦することがあれば――
「すまん、勇者」
アレンはクロノスを見る。
「再戦しても絶対勝てない存在にしてしまった」
本人に悪気はない。
ただ、長い名前を呼ぶのが面倒だった。
そして、少し愛着が湧いたから名前を付けただけだ。
その結果。
エンシェントドラゴンは、ネームドとなった。
そして、Exランク。
アレンは改めてクロノスを見る。
「……まあ、強くなったならいいか」
クロノスは何事もなかったかのように、静かにそこに立っていた。
アレンは思う。
名前を付けるだけでこんなことになるなら――
「他のモンスターには、やっぱり名前を付けないでおこう」
これ以上、余計な化け物を増やす必要はない。
アレンはそう決めた。




