11階層の発見
今日は監察官にとって休日だった。
仕事のことは忘れて、朝からこのダンジョンへ来ている。
目的はもちろん、ガチャだ。
監察官はこのダンジョンのガチャを気に入っていた。
各階層に設置されたガチャを回すために魔石を集め、何が出てくるのかを楽しむ。
酒が出れば当たり。
食料や日用品が出ても悪くない。
手に入れたものを冒険者同士で交換することもできる。
ギルドの監察官という立場ではあるが、休日まで仕事をしたいわけではない。
むしろ、このダンジョンでは完全に一人の冒険者として楽しんでいた。
「さて、今日も回すか」
十階層のガチャを回し終えた監察官は、出てきた景品を確認する。
「まあ、悪くないな」
景品をしまい、帰ろうとしたところで――。
「……ん?」
監察官の視線が止まった。
ガチャの先に、今までなかったものがある。
「階段?」
近づいて確認する。
間違いない。
下へ続く階段だった。
「十一階層か」
監察官は少し驚いた。
このダンジョンは、長い間ほとんど変化がなかった。
Gランクダンジョンとして認定されてから、基本的な構造は変わらなかった。
ところが最近になって、少しずつ変化が起きている。
モンスターが冒険者から逃げるようになった。
各階層にガチャが設置された。
そして今度は、十一階層まで増えた。
「成長してるのか?」
監察官は階段を眺める。
監察官としての経験から見ても、これは興味深い変化だった。
しかし今日は休日だ。
「……まあ、せっかくだし行ってみるか」
純粋に興味が勝った。
監察官は階段を下りていく。
十一階層に入ると、すぐにモンスターが現れた。
「おっと」
モンスターが襲ってくる。
監察官は慣れた動きで迎え撃った。
「……十階層より強いな」
数体倒したところで、すぐに違いが分かった。
攻撃力も耐久力も、一段上がっている。
だが――。
「俺なら問題ないか」
監察官はCランク冒険者でもある。
十一階層のモンスターは確かに強くなっているが、監察官にとっては危険な相手ではなかった。
そのまま探索を続ける。
しばらく進んだところで、見慣れたものを発見した。
「お、ここにもあるのか」
ガチャだった。
各階層に設置されているガチャが、十一階層にも存在している。
監察官は嬉しそうに近づく。
「新しい階層のガチャか」
ガチャの横には説明が書かれていた。
監察官は何気なく読む。
「……ピックアップガチャ?」
十階層までとは、景品の排出率が違うらしい。
さらに説明を読み進める。
「酒の出現率アップ」
監察官の顔が明るくなる。
「これはいい」
休日に来ている監察官にとって、かなり嬉しい情報だった。
「十一階層まで来た甲斐があったな」
酒が出れば、そのまま楽しめる。
酒以外が出ても悪くない。
「酒以外が出たら、十階層で食料と交換すればいいか」
食料を確保して、一杯やる。
それなら十分だ。
「次に来るときは、十一階層まで来ないとな」
すっかり休日の予定を考え始めている。
しかし、そこで監察官はふと思った。
「……いや、待てよ」
十一階層のモンスター。
十階層より一段強い。
そして、これまで存在しなかった新しい階層。
これは監察官として見過ごせない。
「Gランクダンジョンの範囲に収まらないな」
監察官は考える。
十階層までならGランクとして問題ない。
だが、十一階層まで存在するとなると話は変わる。
「ギルドに報告する必要があるか」
休日に仕事をするつもりはなかった。
だが、監察官という立場上、知ってしまった以上は報告しないわけにもいかない。
「Fランクダンジョンへの昇格を検討してもらう必要があるな」
さらに、十一階層へ進む条件も必要になる。
「十階層のボスを倒してから十一階層へ進むようにしたほうがいい」
十階層のボスを倒せない冒険者が、いきなり十一階層へ進めば危険だ。
そこまで考えて、監察官はため息をついた。
「せっかくの休日なのにな」
自分で見つけてしまったのだから仕方がない。
とはいえ――。
監察官は十一階層のガチャを見る。
「酒の出現率アップか……」
口元が緩む。
「これは次の休日も来るしかないな」
結局、仕事のことを考えながらも、最後に頭に残ったのはガチャのことだった。
一方、十一階層へやって来た冒険者たちは、モンスターが一段強くなったことを確認していた。
「十階層より強いな」
「でも、普通に倒せる」
「なら問題ないだろ」
彼らの目的は、必ずしも最深部の攻略ではない。
魔石を集める。
ガチャを回す。
食料や日用品を手に入れる。
必要な資源を確保する。
それが目的なら、敵が一段強くなった程度では探索をやめる理由にならなかった。
「十一階層でも資源は取れるな」
「じゃあ、このまま進もう」
こうして十一階層は、少しずつ冒険者たちに利用され始めていった。
そして監察官は、休日が終わったらギルドに報告しなければならないことを思い出しながらも――。
「次はもっと魔石を持ってこよう」
十一階層のガチャを見ていた。




