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聖女のバフの副作用

Sランクパーティーは、スランプに陥っていた。


原因は分かっている。


聖女から受けたバフだった。


あの時、彼らは自分たちの限界を遥かに超えた力を得ていた。


身体が軽い。


反応速度も違う。


攻撃力も桁違い。


何をしても上手くいく。


まるで自分たちが何でもできるようになったかのような、そんな全能感すらあった。


だが、その力が消えたあとから問題が起き始めた。


「……今の、受けられたよな?」


「いや、あれは受け流す攻撃だ」


「分かってる。分かってるんだが……」


以前なら自然にできていた判断ができない。


受け流すべき攻撃を、なぜか正面から受け止めようとしてしまう。


そして、受け止められるはずがない攻撃をまともに受けてしまう。


「この距離なら避けられる」


そう判断して動いたはずなのに、攻撃が身体を掠める。


「今の攻撃、俺の計算ではもっとダメージが入るはずだった」


敵との距離。


自分の攻撃速度。


相手の防御力。


これまで何度も繰り返してきた戦闘だからこそ、彼らには身体に染みついた感覚があった。


ところが、その感覚が狂っている。


聖女のバフを受けていた時の身体能力を基準にしてしまっているのだ。


ほんの少しの間合いの違い。


ほんの少しの反応速度の違い。


ほんの少しの攻撃力の違い。


その小さなズレが、戦闘では致命的になる。


そして、とうとう50階層のボス戦で問題がはっきりした。


以前なら何度も勝っている相手だった。


ところが今回は、勝てない。


「くそっ!」


攻撃を避けたはずなのに、ボスの攻撃が身体に当たる。


「今のは避けられただろ!」


「避けられると思ったんだ!」


「俺もだ!」


自分たちの感覚と、実際の身体の動きが一致しない。


何度挑んでも安定しない。


ついに彼らは、一つの決断をした。


「エンチャンターを入れよう」


「今の俺たちには、それしかないな」


彼らはエンチャンターをスカウトした。


そして次の50階層攻略では、エンチャンターの支援を受けて挑むことになった。


身体能力を底上げする。


装備を強化する。


足りない部分を魔法で補う。


以前のような圧倒的な力ではない。


それでも、戦闘は安定した。


「今だ!」


前衛がボスの攻撃を受け流す。


後衛が攻撃を叩き込む。


エンチャンターが状況に合わせて支援を続ける。


そしてついに――。


「倒した!」


50階層のボスが崩れ落ちた。


Sランクパーティーは、再び50階層を突破した。


だが、誰も喜びきれなかった。


「……勝てたな」


「ああ」


「でも、以前とは違う」


彼ら自身が一番よく分かっている。


エンチャンターの支援があったから勝てた。


それに、まだ自分たちの感覚は戻っていない。


「やっぱり、あのバフは凄すぎたんだ」


誰かが呟いた。


聖女のバフを受けていた時は、何もかもが簡単だった。


攻撃は当たる。


避けられる。


受け流せる。


敵に与えるダメージも、身体の動きも、全てが自分たちの想像以上だった。


だが、それを経験してしまった。


だから今の自分たちの身体が、以前より弱くなったように感じてしまう。


実際には、何も変わっていない。


以前の自分たちの実力に戻っただけだ。


それでも、一度知ってしまった力を基準にしてしまえば、元に戻るのは簡単ではない。


「聖女のバフって……」


「うん」


「劇薬だったな」


誰も否定しなかった。


50階層を突破できた。


それでも、彼らの本当の戦いはまだ終わっていなかった。


聖女のバフで狂ってしまった戦闘感覚を、もう一度自分たちの身体に取り戻さなければならない。


Sランクパーティーは、しばらくの間、以前とは違う意味で自分たちの戦い方と向き合うことになった。

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