王の視察
王はようやく宰相を説得することに成功した。
「一度くらい、私自身がダンジョンを見てもいいだろう」
「視察そのものに反対しているわけではありません。ですが、王が直接出向く必要があるのかという話です」
「ある。王妃があれほど気に入っている場所だぞ。私だけ見たことがないというのはおかしいだろう」
「……分かりました。ただし、護衛は十分につけてください」
こうして王は、護衛を連れてダンジョンへ向かうことになった。
ダンジョンの入口に到着すると、王はゆっくりと中へ入っていった。
そして、一階層へ足を踏み入れた瞬間。
「……何だ、これは?」
王は立ち止まった。
目の前に町が広がっていた。
道があり、建物が並び、人々が行き交っている。
店もある。
住宅もある。
職人が仕事をしている姿も見える。
冒険者だけではない。
子供や老人、商人、職人など、普通の町で暮らしているような人々が歩いている。
「ここが……ダンジョンの一階層なのか?」
「はい」
「町ではないか」
「ダンジョンの町です」
王はしばらく言葉を失った。
ダンジョンと聞いて想像していたものとは、あまりにも違う。
魔物が徘徊する洞窟でもない。
冒険者だけが行き交う場所でもない。
そこには、人々の生活があった。
王は案内されながら町を歩いた。
食料品を扱う店。
日用品を扱う店。
武器や防具を扱う店。
様々な店が並んでいる。
さらに町の一角には採掘場があり、鉄や銅を掘っている者たちもいる。
「一階層で鉱石まで採れるのか?」
「はい。しかもここは魔物に襲われません」
王は採掘場を見たあと、再び町を見回した。
「……ダンジョンの中に町を作って、そこで人間が暮らしているのか」
「その通りです」
王は歩きながら、何度も周囲を見た。
住民たちは王が来たからといって慌てる様子もない。
ここで暮らすことが、すでに当たり前になっているのだ。
「これほどの町がダンジョンの中にあるとはな……」
王は町を十分に見てから、さらに奥へ向かった。
次に案内されたのは十階層だった。
そこには大きな箱が置かれていた。
「これは何だ?」
「宝くじ箱です」
「宝くじ?」
王は説明を聞きながら箱を眺めた。
魔石を使って抽選し、様々な景品が当たる。
景品には宝石や酒などもある。
「……ダンジョンで宝くじまでやっているのか」
王は呆れたように笑った。
その後、王一行はダンジョンランドへ向かった。
そこで王妃と面会する。
「お待ちしておりましたわ」
「ようやく来ることができた」
王は王妃に、今日見たものを話した。
「一階層に町があるとは聞いていたが、実際に見ると驚くな」
「そうでしょう?」
王妃は楽しそうに笑った。
王は少し考えてから言った。
「ところで、君の屋敷も見せてくれ」
「それは駄目ですわ」
即答だった。
「私は夫だぞ?」
「それとこれとは別ですわ」
結局、王は王妃の屋敷には入れてもらえず、ダンジョン内のホテルに泊まることになった。
翌朝。
王が帰る時間になると、王妃が見送りに来た。
「それでは、お気をつけてお帰りくださいませ」
「ああ」
王は少し考えた。
そして以前から気になっていたことを口にする。
「ところで、あの車だが」
「車?」
「君が乗っているものだ。私にも貸してくれないか?」
王妃は首を横に振った。
「駄目ですわ」
「なぜだ?」
「あれは私が王城とダンジョンを行き来するための専用車両ですもの」
「一度くらいなら」
「駄目ですわ」
王は残念そうな顔をした。
すると王妃が、ふと思い出したように言った。
「そういえば、車の代わりになるダンジョン産の乗り物がありますわ」
「本当か?」
王の顔が明るくなる。
「ええ。自転車ですわ」
王の前に自転車が運ばれてきた。
王は自転車をじっと見つめた。
二つの車輪。
細い車体。
そしてペダル。
「……これが車の代わり?」
「はい」
「これで?」
「ちゃんと移動できますわ」
王は自転車の周囲を一周した。
そして尋ねる。
「持って帰っていいのか?」
「ええ。どうぞ」
「本当に?」
「自転車一台くらい、問題ありませんわ」
王は自転車を受け取った。
車は手に入らなかった。
王妃の屋敷にも入れてもらえなかった。
ホテルに泊まることになった。
だが、最後にはダンジョン産の自転車を手に入れた。
王は自転車を眺める。
「……まずはこれで我慢するか」
こうして王は、自転車を持って王城へ帰っていった。




