ラインナップの変更
王妃様のお茶会を、アレンはマスタールームから眺めていた。
最近はガチャの廃止やラインナップの変更について、王妃様たちの間でも話題になることが増えている。
「冒険者から聞きましたけれど、インゴットガチャがなくなったらしいですわね」
王妃様が紅茶を口に運びながら話す。
「鉱山から鉄や銅が産出されるようになりましたから、インゴットガチャがなくなっても特に影響はないと聞いていますわ」
「そうですわね。必要な鉱石は自分たちで採掘できますもの」
「それに、ガチャもラインナップが変わったみたいですわ」
「紅茶やお茶菓子が手に入らなくなりましたね」
その言葉に、王妃様はテーブルの上に並んだ菓子へ視線を向けた。
「でも、そこまで困りませんわ」
「そうですわね」
「ダンジョン産のお茶菓子が出回ったことで、こちらの職人たちも研究するようになりましたもの。今ではかなりのところまで再現できていますわ」
テーブルには、以前ならガチャからしか手に入らなかったような菓子が並んでいる。
見た目も味もかなり近い。
もちろん、完全に同じというわけではない。
それでも、食べる側からすれば十分に満足できるものになっていた。
「技術よりも発想が大事なものは、かなり再現できていますね」
「ええ。作り方さえ分かってしまえば、こちらの職人たちは本当に器用ですわ」
王妃様は感心したように菓子を眺める。
ダンジョンから流れてきた品を見て、最初は誰も作り方が分からなかった。
だが、一度市場に出回ってしまえば、それを研究する職人が現れる。
材料を調べ、構造を調べ、試行錯誤を繰り返す。
そうして少しずつ、この世界の技術へと落とし込まれていった。
「ただ……」
王妃様は少し離れた場所に置かれている家電へ目を向けた。
「この家にある家電だけは、まったく再現できる見通しが立っていませんわね」
「そうですわね。あれだけは別格ですわ」
「恐らく、この家電にたどり着くまでの工程が抜けているのでしょうね」
菓子なら、材料と完成品を見れば、どういうものか想像できる。
しかし家電はそうはいかない。
内部に使われている部品、その部品を作るための技術、さらにその部品を作るための機械。
一つを再現しようとすれば、その前段階にある技術まで必要になる。
今のこの世界には、その途中が丸ごと抜け落ちている。
「ダンジョンから出てくるものを真似するだけでは、家電までたどり着けないということですわね」
「ええ。ですが、今のところ問題は起きていませんわ」
王妃様は再び紅茶を飲み、目の前の菓子を一つ手に取った。
「ガチャがなくなったものもありますけれど、代わりにこちらの職人たちが成長していますもの」
「ダンジョンから得たものを、そのまま使うだけではなくなってきたということですわね」
「そういうことですわ」
アレンはその会話を聞きながら、マスタールームで小さく頷いていた。
どうやら、ガチャの廃止やラインナップ変更によって、大きな混乱は起きていないらしい。
むしろ、ガチャから出ていたものをきっかけに、この世界の人間が自分たちで作れるものを増やしている。
アレンとしても、それなら問題ないと思った。
家電だけは相変わらずどうにもならないようだが――そこまで再現されたら、それはそれで面倒なことになりそうなので、今のところ放っておくことにした。




