聖女の不在
勇者候補たちは50階層をなかなか突破できずにいた。
50階層のAランクボスは、一人で戦うにはあまりにも厄介だった。
勇者候補たちほどの実力があっても、攻撃と防御を同時にこなし、さらにボスの意識まで自分に引きつけ続けるのは簡単ではない。
何度挑戦しても、突破口を見つけることができなかった。
そんな中、勇者候補の一人が言い出した。
「勇者パーティーは、聖女がいてはじめて力を発揮できるんじゃないか?」
その場にいた勇者候補たちは、一瞬黙った。
確かに、間違いではない。
聖女がいれば、戦いの負担は大きく変わる。
回復を任せることができれば、攻撃に集中できる。
支援を受けることもできる。
一人ですべてをやらなければならない今の状況なら、聖女がいるだけでも戦い方は大きく変わるだろう。
だが、それを言い出した本人も分かっていた。
「……かなりせこいけどな」
50階層を突破できないから、聖女を連れてきて戦おうという話なのだ。
正攻法とは言い難い。
それでも、突破できないものは突破できない。
「教会に聖女の派遣ができないか問い合わせてみるか」
勇者候補たちは、教会に問い合わせることにした。
そして、教会から返ってきた回答は意外なものだった。
次世代の聖女は、すでに先代からの引き継ぎが終わっている。
聖女としての力を確かめる必要もない。
すでに今すぐ勇者と旅立てるレベルにまでなっているという。
勇者候補たちは、その回答を聞いて驚いた。
聖女の準備ができているなら、後は一緒に旅立つ勇者を決めればいい。
しかし、そこにも問題があった。
現在の勇者は、すでに引退を表明していた。
勇者としての役目を終えるつもりだったのだ。
だが、次代の勇者が決まるまでは辞めることができない。
後継者が決まっていない以上、勇者の役目を放り出すことはできなかった。
一方、聖女はすでに先代からの引き継ぎを終えていた。
そして、聖女は冒険者活動をしないことになっていた。
聖女として必要なことは、すでに次代へと引き継がれている。
聖女が代々引き継いできた杖も、次代の聖女へと渡された。
それで聖女としての引き継ぎは完了していた。
ただし、一つだけ引き継がれなかったものがあった。
アレンが用意したレーヴァテイン・ロッドだ。
その杖だけは、引退した聖女が次代の聖女へ渡さなかった。
レーヴァテイン・ロッドは、引退した聖女が持ったままだった。




