聖女の後継者
その頃、聖女は静かに神へ祈りを捧げていた。
彼女はすでに、冒険者活動からの引退を表明している。
だが、それはあくまで冒険者としての活動を終えるという意味だった。
聖女という立場を引退するわけではない。
聖女は死ぬまで聖女だ。
そして彼女自身もまた、人間離れした力を持つ存在だった。
歴代の聖女の中でも一、二を争うほどの実力者。
勇者と並び、この世界でも数少ない「人外の域」に達した者の一人だった。
ただし、勇者と聖女では後継者の決まり方がまったく違う。
勇者は、壮絶な後継者候補たちの中から選ばれる。
実力を競い、結果を出し、周囲から認められなければならない。
だからこそ、現在も勇者見習いたちが聖剣を求め、ダンジョンへ押し寄せている。
一方、聖女は違う。
聖女は先代の聖女が次代を指名する。
そこに競争はない。
聖職者たちは、次の聖女の座を奪い合うようなことをしない。
先代が「この者」と決めれば、それで終わりだ。
そして現在の聖女には、すでに後継者が決まっていた。
次の聖女になる人物は、いつでも聖女として活動できるよう準備を整えている。
だから、次の勇者が決まりさえすれば――
「いつでも派遣できます」
教会側の準備は、すでに整っている。
勇者が決まってから聖女を探す必要などない。
勇者が選ばれた。
その報告が届けば、すぐに次の聖女を送り出せる。
これが、勇者と聖女の大きな違いだった。
そして勇者パーティーも、最初から大人数で始まるわけではない。
新しい勇者が誕生した時、まず始まるのは二人だけ。
勇者と聖女。
この二人でパーティーが始まる。
そこから先は勇者次第だ。
旅をしながら、自分たちに足りない能力を補える仲間を探す。
前衛が足りないなら前衛。
魔法が足りないなら魔法使い。
斥候が必要なら斥候。
必要な能力を持つ人物を、勇者自身が見つけてスカウトしていく。
だから勇者パーティーは、勇者によって構成が大きく変わる。
聖女は固定。
勇者が自分の足りない部分を埋める仲間を集めていく。
それが、この世界の勇者パーティーだった。
祈りを終えた聖女は、ゆっくりと立ち上がった。
次の勇者が決まる日は、そう遠くない。
その時、自分の後継者が新しい勇者と共に旅立つことになる。
「どうか、良き出会いがありますように」
聖女はそう呟き、再び神へ祈りを捧げた。




