草薙剣
Sランク冒険者たちは、最近パチンコ屋にすごい武器が飾られているという噂を耳にした。
「Sランクボスのドロップ装備が飾られているらしいぞ」
「本当か?」
「見た奴がいる。間違いないらしい」
その話を聞いた瞬間、Sランクパーティーの全員が顔を見合わせた。
Sランクボス。
それは、この世界でも簡単に倒せる存在ではない。
Sランク冒険者でさえ、挑戦すること自体が大きな決断になる。
まして、そのドロップ装備となればさらに貴重だ。
オークションに出品されることもあるが、年に二本、三本出ればいい方。
欲しいと思ったところで、そもそも市場に出てこない。
「行ってみよう」
「絶対に見たい」
こうしてSランクパーティーは、噂のパチンコ屋へ向かった。
店に入ると、すぐに目についた。
店内の一番目立つ場所に、立派なショーケースが置かれている。
その中に、武器が飾られていた。
「……あれか」
近づいて確認する。
鑑定してみれば、間違いない。
Sランクボスのドロップ装備だ。
「本物だ……」
一人が思わず呟く。
全員が食い入るように武器を見つめる。
「欲しい」
誰かが呟いた。
「俺も欲しい」
「これを手に入れたら、次の攻略が楽になる」
Sランク冒険者にとって、強力な装備は単なるコレクションではない。
自分たちの命を預ける道具でもある。
当然、欲しくなる。
しかし、問題は交換に必要な貯玉だった。
ショーケースの横には、交換に必要な数が表示されている。
「……かなり必要だな」
「でも、貯玉なら貯められる」
パチンコ屋には貯玉システムがある。
その日に使わなかった玉を貯めておけば、後から交換に使える。
「地道に貯めればいい」
Sランクパーティーはそう考えた。
それからというもの、彼らはパチンコ屋に通い始めた。
パチンコを打つ。
玉が増える。
しかし、再プレイには使わない。
景品にも交換しない。
ひたすら貯める。
「今日も増えたな」
「あと少し……いや、まだかなりあるな」
「でも、確実に近づいている」
Sランク冒険者たちは、まるでダンジョン攻略のように貯玉を増やしていった。
そしてある日。
一人が貯玉の画面を眺めながら、ふと首を傾げた。
「……待てよ」
「どうした?」
「これ、貯玉ってパチンコで増やすだけじゃないよな?」
「そうだろ」
「じゃあ、金を玉に交換して、そのまま貯玉に入れればいいんじゃないか?」
全員が黙った。
「…………」
「…………」
そして、ゆっくりと全員が顔を見合わせた。
「それ……できるのか?」
「店員に聞いてみよう」
確認してみる。
できる。
その事実を知った瞬間、Sランクパーティーの行動が変わった。
今まで地道に玉を増やしていた。
しかし、そんな必要はなかった。
金を玉に交換してしまえばいい。
「これでどれくらいになる?」
「かなり増えますね」
「じゃあ、これも」
「俺の分も頼む」
貯玉の数字が一気に増えていく。
そして、ついに。
「交換できる」
ショーケースの前に立つ。
「本当に交換するのか?」
「ここまで貯めたんだ。するに決まってるだろ」
一人が交換を申し込む。
武器がショーケースから消えた。
「……やった」
それだけでは終わらなかった。
別のSランクボスのドロップ装備にも目をつける。
「こっちも欲しいな」
「俺も」
「じゃあ、貯玉を使うか」
また一つ。
また一つ。
ショーケースに飾られていた伝説級の装備が、次々と交換されていく。
そして――
最後の一本まで交換された。
ショーケースが空になった。
店員も驚いていた。
宣伝用に飾っていたはずの武器が、まさか全部なくなるとは思っていなかったのだ。
その頃、アレンもその状況を知った。
「……全部なくなった?」
空っぽになったショーケースを見て、アレンは呆然とする。
「いや、交換されないと思ってたから飾ってたんだけど……」
Sランクボスのドロップ装備なら、普通は欲しくても簡単には手に入らない。
だから宣伝になると思っていた。
ところがSランクパーティーは、本当に全部交換してしまった。
「仕方ないな」
アレンは考えた。
ショーケースが空っぽでは、せっかくの宣伝にならない。
何か代わりに飾るものが必要だ。
そしてアレンが取り出したのは――
一本の剣だった。
「これでいいか」
草薙剣。
この世界で聖剣と呼ばれる、伝説級の武器。
アレンは草薙剣をショーケースの中央に飾った。
そして、その横に交換価格を表示する。
三十億。
「三十億」
アレンは表示を確認する。
「うん。三十億」
今までの装備とは桁が違う。
いくらSランク冒険者でも、三十億を簡単に出せるはずがない。
「これは絶対に交換されないだろ」
アレンは満足した。
空っぽだったショーケースも、今度は一気に豪華になった。
しかも飾られているのは聖剣、草薙剣。
宣伝効果も抜群だ。
「これなら大丈夫」
アレンはマスタールームからショーケースを眺める。
「三十億だぞ?」
自分に言い聞かせるように呟く。
「さすがに交換できないよね」
一度、全部の武器を根こそぎ交換されたばかりだ。
そのせいで、アレンの中にほんの少しだけ不安が残っている。
「……大丈夫だよね?」
アレンは草薙剣を眺める。
三十億。
今度こそ、絶対に交換されない。
そう思いながら、アレンは安心してマスタールームへ戻った。




