試練の廊下
アレンは、最近の冒険者たちの動きを見ながら、ダンジョンのポイント収入について考えていた。
アレンのダンジョンで、特にポイントがおいしい行動がある。
それは、冒険者がボスに挑み、勝てないと判断して撤退することだった。
ボスに挑んでいる間は冒険者がダンジョンに滞在している。
戦っている時間もポイントになる。
そして、冒険者が「これは無理だ」と判断して撤退すれば、ボスを倒していないのでドロップ報酬を支払う必要もない。
つまり、ダンジョンとしてはポイントだけを獲得できる。
「これ、めちゃくちゃおいしいな」
アレンは思わず笑ってしまった。
しかも今のダンジョンには、実力以上の相手に挑んでくれる冒険者が多い。
理由は簡単だ。
撤退できるからだ。
以前のダンジョンなら、強すぎる相手に挑むことは命懸けだった。
しかし、アレンのダンジョンでは、危険を感じたら撤退できる。
だから冒険者たちは、
「もしかしたら勝てるかもしれない」
という気持ちで、自分たちより強いボスにも挑戦していく。
そして、無理だと分かれば撤退する。
アレンにとっては最高の状況だった。
「勝ってくれれば報酬を払う。勝てなければポイントだけもらえる……」
冒険者が挑戦すればするほど、ダンジョンにはポイントが入ってくる。
アレンは現在のポイント獲得量を確認していった。
特にずば抜けているのは、三つの階層だった。
五十階層。
三十七階層。
三十階層。
五十階層では、Aランクボスを目当てに強力な冒険者たちが何度も挑戦している。
三十七階層では、リッチを突破しようとする冒険者たちが何度も挑んでは撤退していく。
三十階層では、Cランク認定を目指す冒険者たちがボスに挑戦している。
どの階層も、冒険者が長時間滞在してくれる。
そして、勝てなければ撤退する。
アレンは三つの階層を眺めながら考えた。
「もっとこういう場所を作れないかな」
ボスほど強くなくてもいい。
冒険者が「自分の力を試したい」と思って挑戦してくれればいい。
そして、長くダンジョンに滞在してくれれば、それだけポイントになる。
「……そうだ」
アレンの頭に、新しいアイデアが浮かんだ。
「試練の廊下だ」
アレンはさっそくダンジョンコアに指示を出した。
作るのは一本の長い廊下。
そこには罠を仕掛ける。
通過すると生命力を奪われる罠だ。
もちろん、一気に倒してしまうようなものではない。
進めば進むほど、少しずつ生命力を奪われていく。
どこまで進めるのか。
自分には、この先へ進む力があるのか。
それを試すための場所だ。
そして、廊下の入口には看板を設置した。
『試練の廊下』
『この先に進む力が自分にあるか、試してみよう』
『生命力を奪う罠が設置されています』
『危険を感じた場合は、すぐに引き返してください』
アレンは看板を確認して満足した。
これなら冒険者も無理はしないだろう。
ちゃんと危険だと書いてある。
引き返せとも書いてある。
アレンはそう思っていた。
しかし、冒険者という生き物を、アレンはまだ理解していなかった。
「試練の廊下だってよ」
「生命力を奪う罠があるらしいぞ」
「どこまで進めるか試してみようぜ」
看板を読んだ冒険者たちは、むしろ興味を持った。
そして、一人が廊下へ足を踏み入れる。
少し進む。
生命力が奪われる。
「おお……本当に減った」
だが、まだ進める。
「これなら大丈夫だな」
さらに進む。
また生命力が奪われる。
「まだいける!」
さらに進む。
アレンはマスタールームからその様子を見ていた。
「……罠だって書いてあるのに」
冒険者は止まらない。
「ここまで来たんだから、もう少し!」
「俺はまだいける!」
「先に行った奴より進んでやる!」
次々と冒険者が試練の廊下へ入っていく。
アレンはしばらく眺めたあと、呆れたように呟いた。
「こいつら……アホだから、自分から罠にかかりにいくじゃん」
しかも、途中で危険を感じれば戻れる。
倒れる前に引き返せる。
だから冒険者たちは安心して挑戦できる。
そして、挑戦している間はダンジョンにポイントが入る。
アレンは新しく増えていくポイントを確認して、満足そうに笑った。
「これ、結構いけるな」
ボスを増やさなくてもいい。
冒険者が自分から挑戦したくなる場所を作ればいい。
しかも、撤退できる仕組みなら、冒険者も無茶をしやすい。
アレンにとっては、まさに理想的なポイント獲得施設だった。




