勇者の名声
アレンは勇者のことを考えていた。
勇者は人類の最強戦力だ。
しかし、常に魔王が存在しているわけではない。
勇者として活動する期間は、およそ二十年程度。
それに対して、魔王が二百年から三百年周期で復活するのだとしたら、勇者が存在している期間よりも、魔王がいない期間のほうが圧倒的に長い。
つまり、勇者という存在は、人類にとって非常に強大な戦力でありながら、その力を発揮する機会そのものが少ないのだ。
アレンは考える。
「あの勇者パーティーは、間違いなく歴代最強だよな」
エンシェントドラゴンと正面から戦い、そして勝利した。
その戦いをアレンは映像として残している。
それほどの偉業を成し遂げた勇者たちが、誰にも知られることなく歴史の中に埋もれてしまう。
アレンには、それがどうにも納得できなかった。
魔王を倒した勇者だけが名を残す。
それではあまりにも寂しい。
「勇者の名前を残す方法……」
アレンは考え、そして思いついた。
「映画館で流してみるか」
勇者とエンシェントドラゴンの死闘。
あの戦いを映像として残しているのなら、映画として見せることができる。
こうして、ダンジョンランドにある映画館で、勇者とエンシェントドラゴンの戦いが上映されることになった。
ダンジョンランドに入れるのは貴族だけだ。
そのため、映画を見ることができるのも貴族たちだった。
最初は、ただの珍しい娯楽として映画館を訪れる者も多かった。
だが、上映が始まると、客席の空気が変わった。
巨大なエンシェントドラゴン。
それに立ち向かう勇者たち。
一歩間違えば命を失うような戦いの中で、それでも前へ進み続ける勇者たちの姿が映し出される。
観客は息をするのも忘れるほど、その戦いに見入っていた。
その中にはリリアもいた。
最初はどんなものなのか興味本位で見に来ただけだった。
しかし、映像が進むにつれて、リリアの表情は変わっていった。
「すごい……」
気がつけば、リリアは完全に映画に引き込まれていた。
勇者たちがエンシェントドラゴンに挑み、仲間同士で連携しながら戦う。
その姿を見ているうちに、リリアは勇者に憧れるようになっていた。
映画が終わっても、リリアはしばらく席から立てなかった。
「……勇者様、かっこいい」
それ以来、リリアは勇者のファンになった。
映画を見た貴族たちは、当然その話をする。
「あの勇者の戦いを見たか?」
「あれは本当に凄かった」
「エンシェントドラゴンを倒したというのは本当だったのだな」
「あの勇者パーティーは歴代最強ではないか?」
ダンジョンランドで見た映画の話は、貴族たちの間で広がっていった。
そして貴族たちがそれぞれの領地や王都で話をすることで、勇者の名前も少しずつ広がっていく。
映画そのものが王都へ運ばれたわけではない。
だが、勇者とエンシェントドラゴンの戦いを見た者たちが、その凄まじさを語り継いだ。
やがて王都でも、その勇者の物語を題材にした舞台の演目が作られることになった。
こうして勇者の名は、国中に知られていった。
魔王を倒したからではない。
エンシェントドラゴンを倒した、その偉業そのものが人々の間に広がっていったのだ。
そして、その後もアレンのダンジョンには、代々の勇者が腕試しに訪れるようになった。
自分たちも歴代最強の勇者になりたい。
そう考える勇者たちが、エンシェントドラゴンが存在するダンジョンへ挑みに来るようになったのだ。
だが――。
何人もの勇者が挑戦しても、エンシェントドラゴンを倒したのは、最初に挑んだあの勇者パーティーだけだった。




