辺境伯令嬢リリア
今日は王妃様とセレスティアとフローラとリリアがお茶会をしていた。
王妃様の住む屋敷には、いつものように穏やかな時間が流れている。四人はお茶を飲みながら、それぞれ近況を話していた。
リリアは辺境伯の令嬢だ。
普段から活発な性格で、騎士や兵士たちの訓練にも顔を出すことが多い。特に魔獣との戦いの話になると、途端に目を輝かせる。
そんなリリアの耳に、近衛がダンジョンに挑戦して30階層を突破した話が入った。
「近衛が30階層を突破したのですか?」
リリアの手が止まる。
王妃様が頷いた。
「ええ。30階層のボスを倒したそうですわ」
「それは……」
リリアの表情が変わった。
「うちの騎士団にも挑戦させますわ!」
血が騒いでいた。
近衛が30階層まで行った。
ならば辺境伯軍も負けてはいられない。
騎士団は魔獣との戦闘が豊富なのだ。
「辺境伯軍の強さを見せつけてやりますわ!」
リリアは意気込んでいた。
誰にみせたいのかは謎である。
王妃様はそんなリリアを見て、苦笑した。
「相変わらずですわね」
「当然ですわ! 魔獣との戦闘なら、私たちの得意分野ですもの!」
リリアの頭の中では、すでに騎士団とダンジョンの戦いが始まっていた。
さっそくリリアは騎士団に呼び掛ける。
「30階層を突破した近衛に負けていられませんわ。誰か私と一緒にダンジョンへ行きませんか?」
すると、待っていましたとばかりに声が上がった。
「俺をメンバーに加えてくれ!」
「俺も行く!」
「俺もだ!」
次々と立候補する騎士たち。
どうやらリリアだけではなかった。
戦闘狂である。
ダンジョンという言葉を聞いて、むしろ嬉しそうにしている。
「よし、決まりですわ!」
リリアは自ら騎士団を率いてダンジョンに挑む。
そして、その報告を聞いたアレンは首を傾げた。
「いきなり30階層から?」
普通ならもっと下の階層から戦力を確認する。
だが、辺境伯領の騎士たちは違った。
魔獣との戦闘経験が豊富で、実戦を何度も経験している。
「近衛が30階層まで行ったのなら、私たちも30階層からですわ!」
リリアは迷わなかった。
そして30階層。
騎士たちはボス部屋へ入る。
巨大なボスが姿を現した瞬間、その攻撃が飛んできた。
ズンッ!
重い一撃が大地を揺らす。
「来るぞ!」
「構えろ!」
前衛の重騎士たちが一斉に大楯を構える。
ガンッ!
巨大な衝撃が大楯を叩いた。
重騎士の身体が後ろへ押される。
しかし、倒れない。
「受け止められる!」
「ならば、そのまま押さえ込め!」
リリアは戦況を見ていた。
ボスの攻撃は重い。
まともに受け続ければ、確かに厳しい。
だが、一撃でこちらを壊滅させるほどではない。
そしてこちらには、魔獣との長期戦を何度も経験してきた騎士たちがいる。
リリアは判断した。
「敵の攻撃は耐えられる時間さえかければ倒せますわ!」
短期決戦ではない。
無理に攻撃を急ぐ必要もない。
「耐久戦闘に切り替えますわ!」
「了解!」
「盾役は絶対に崩れるな!」
「後衛は隙を見て攻撃!」
騎士たちは一斉に動き始めた。
重騎士が大楯で攻撃を受け止め、その隙に後方の騎士が攻撃を加える。
無理に深追いはしない。
攻撃を受ける。
耐える。
隙を見つけて攻撃する。
そしてまた耐える。
時間はかかった。
だが、ボスの体力は確実に減っていく。
「まだいける!」
「盾を維持しろ!」
「焦るな!」
長期戦になればなるほど、経験の差が出る。
領地をスタンビートから守った部隊だ。
大量の魔獣が押し寄せる状況でも、隊列を崩さず戦い続けてきた。
一体の強敵を相手に、時間をかけて倒す程度なら、彼らにとって特別なことではない。
「あと少しですわ!」
ボスの動きが鈍る。
それでも騎士たちは焦らない。
長期戦になろうがミスなんて起きない。
盾役は最後まで役目を果たし、攻撃役も無理をしない。
一歩ずつ、確実にボスを追い詰めていく。
そして最後の一撃が入った。
巨大なボスが崩れ落ちる。
「倒したぞ!」
「やった!」
「30階層突破だ!」
歓声が上がる。
リリアも満足そうに頷いた。
「当然ですわ。私たちは辺境伯領を守ってきた騎士団ですもの」
危なげなくボスを倒すことに成功する。
そして、その勢いは止まらなかった。
31階層。
32階層。
33階層。
騎士たちはさらに先へ進む。
31階層から36階層までのボスは、それぞれ強敵だった。
だが、騎士たちは一体ずつ慎重に戦い、無理をすることなく突破していった。
「次ですわ!」
リリアの声に、騎士たちも応える。
「行きましょう!」
その勢いで36階層まで突破する。
そして37階層。
扉を開けた先にいたのは、これまでとは明らかに異なる存在だった。
「……あれは?」
リリアが目を細める。
死霊魔法を操るリッチ。
その姿を見た瞬間、騎士たちの表情が変わった。
リリアは装備を確認する。
今の装備では、あの相手に対して十分な対策ができない。
無理に戦えば、これまでのようにはいかない。
「……この装備では無理ですわ」
誰も反論しなかった。
37階層のリッチは、これまでの魔獣とは違う。
今の装備のまま挑む相手ではない。
リリアは迷わず判断した。
「今日はここまでですわ。引き上げますわよ!」
「了解!」
騎士たちは素直に撤退を開始する。
無理に挑んで犠牲を出す必要はない。
必要な装備を整えてから、もう一度挑めばいい。
リリアは振り返り、37階層の奥を見つめた。
「次は勝ちますわ」
その言葉を残し、辺境伯領の騎士団はダンジョンを後にした。




