近衛隊長の報告
近衛隊長はダンジョンから戻ると、王妃のもとへ向かった。
「王妃様、ご報告いたします」
「ご苦労様です。それで、どこまで行けましたか?」
「30階層です」
王妃が目を見開く。
「30階層まで?」
「はい。ですが……30階層が限界でした」
隊長は正直に報告した。
30階層のボスは、それまでとは別格だった。
近衛の装備では攻撃を受け止めきれず、隊列も崩れた。
最終的には隊長が何とかボスを倒したものの、他の近衛兵たちは戦闘後に動けないほど消耗していた。
「よくやりました」
王妃は近衛兵たちを労うように微笑んだ。
「30階層まで到達したのです。十分な結果ですわ」
「ありがとうございます」
隊長が頭を下げる。
「それに、ダンジョンマスター様からも『いいものを見せていただいた』と、お言葉をいただきました」
「……ダンジョンマスター様から?」
近衛隊長が驚いたように顔を上げる。
「ええ。あなたたちの戦いを、最後までご覧になっていたそうですわ」
「それは……光栄です」
近衛隊長は深く頭を下げた。
「それから、ダンジョンマスター様からもう一つお話がありました」
「もう一つですか?」
「ええ。あなたと騎士団長を組ませて、ドリームチームを作ってみてはどうかと」
「私と騎士団長を……」
近衛隊長は少し驚いた。
「30階層での戦いを見て、思いつかれたのでしょうね」
「なるほど……」
王妃は少し考える。
「ですが、今回は止めておきましょう」
「承知しました」
「今日はもう十分です。ゆっくり休んでください」
「ありがとうございます」
近衛隊長は一礼して、その場を下がった。
だが、その夜。
近衛兵たちは宿舎に集まっていた。
「30階層まで行った」
「ああ」
「最低限の力は見せられたな」
全員が頷く。
だが、誰も満足した顔をしていない。
「……このままだと、近衛の実力はCランク冒険者程度だと思われるぞ」
「それは困る」
「絶対に困る」
30階層を突破した。
確かに結果だけを見れば立派だ。
しかし、隊長が別格だったからこそ突破できた。
他の近衛兵たちは、30階層のボスを相手にまともに戦い続けることができなかった。
「隊長がいなければ、どうなっていた?」
「……突破できていない」
その答えに、全員が黙り込む。
しばらくして、一人の近衛兵が口を開いた。
「だったら、やることは一つだろ」
「そうだな」
「次は隊長抜きで30階層を突破するぞ」
隊長はその場にいない。
だが、その言葉に反対する者はいなかった。
近衛兵たちは王族を守るために鍛えてきた。
ならば、まだ足りない。
翌日から、彼らは休みの日に冒険者活動を始めることにした。
任務ではない。
自分たちの意思でダンジョンへ通うのだ。
「まずは隊長抜きで30階層」
「絶対に突破するぞ」
「おう!」
近衛兵たちの新たな目標が決まった。
今度は隊長に頼らず、自分たちの力だけで30階層を突破する。
そのための訓練が、始まろうとしていた。




