別荘地
ダンジョンランドが賑わうようになってから、王妃様が暮らす区画にも少しずつ変化が起きていた。
王妃様の屋敷がある区画の近くに、貴族の別荘が増え始めたのだ。
もちろん、アレンが建てたものではない。
貴族たちが自分の資金で土地を確保し、別荘を建てているのだ。
その理由は単純だった。
王妃様が住んでいる。
そして、その近くには次期王妃となる公爵令嬢、さらに侯爵令嬢も暮らしている。
この三人に続く形で、ダンジョンランドに屋敷を持ちたいと考える貴族が現れ始めていた。
「王妃様のお屋敷の近くなら、王都より安全だ」
「何より、あの区画に住んでいること自体が一種の名誉になる」
「ダンジョンマスター様に認められた方々と同じ区画なのだからな」
そんな話が貴族たちの間で交わされていた。
だが、問題があった。
王妃様たちが暮らしている区画は、普通の別荘地ではない。
広大な土地は高い塀で囲まれている。
中へ入るには正門を通り、近衛による確認を受けなければならない。
身分が高いからといって自由に入れるわけではない。
そして、もっと重要な決まりがある。
この区画に建てることを許されている建物は、アレンが認めたものだけ。
現在、広大な敷地の中にある屋敷は三軒。
王妃様の屋敷。
次期王妃である公爵令嬢の屋敷。
そして侯爵令嬢の屋敷。
それだけだった。
新しく別荘を建てようとしている貴族たちは、その外側に土地を求めている。
当然、彼らとしては面白くない。
「どうにかして、あの区画に屋敷を持てないものか」
「ダンジョンマスター様にお願いするしかないだろう」
「しかし、直接お願いする方法がない」
そこで貴族たちは王妃様に頼み始めた。
「王妃様からダンジョンマスター様にお願いしていただけませんでしょうか」
「私もぜひ一度、お願いしていただきたく……」
「どうか、屋敷を建てる許可を……」
王妃様のもとには、そんな嘆願が次々と届くようになった。
さらに、宝くじ箱にも書状が入る。
『どうか我が家にも屋敷をお与えください』
『王妃様の区画に住むことをお許しいただけないでしょうか』
『必要であれば相応の土地代をお支払いします』
『建物についても、ダンジョンマスター様のご指定に従います』
次から次へと届く書状を見て、王妃様はため息をついた。
「……またですわ」
近衛隊長が書状の山を見る。
「日に日に増えておりますな」
「ええ。最近では、私に直接お願いしてくる方まで増えましたわ」
王妃様は一枚の書状を手に取った。
そこには、かなり丁寧な言葉で屋敷を求める願いが書かれている。
「しかし、私が勝手に決められることではありませんわ」
「はい」
「そもそも、あの三軒のお屋敷もダンジョンマスター様から与えられたものですもの」
王妃様は窓の外を見る。
塀の向こうには、少しずつ増えていく貴族たちの別荘が見える。
「……次にダンジョンマスター様から屋敷をいただけるのは、どなたなのでしょうね」
王妃様がそう呟くと、近衛隊長は苦笑した。
「それを知りたい貴族が、大勢いるのでしょうな」
「困ったものですわ」
そう言いながらも、王妃様の手元には、まだ開いていない書状が何通も残っていた。
そしてその日の夜も、宝くじ箱には新しい書状が入れられることになる。
屋敷を求める嘆願は、まだ止まりそうになかった。




