勇者パーティーとSランクボス
勇者パーティーは50階層から攻略を進めていた。
50階層までは、Sランクパーティーが何度も足を止めながら攻略してきた場所だ。
だが、51階層に入った瞬間から状況が変わった。
「Aランクの魔物しかいないのか」
勇者が周囲を見回す。
そこにいる魔物は、どれもAランク。
一体だけでも十分に危険な存在だ。
Sランクパーティーですら、一日に一階層進むのが精一杯だった。
それなのに。
「行くぞ」
勇者が歩き出す。
「了解!」
仲間たちも続いていく。
戦闘が始まれば、勇者が魔物を斬り、戦士が盾で受け、魔法使いが魔法を放ち、僧侶が必要に応じて回復する。
確かに強い。
だが、それ以上に奇妙だった。
足取りが全く遅くならない。
51階層。
52階層。
53階層。
54階層。
まるで散歩でもしているかのように進んでいく。
Sランクパーティーは、その様子を見ながら呆然としていた。
「……本当にAランクしかいないよな?」
「間違いない」
「なんであいつら、あんなに普通に進めるんだ?」
「俺たちが苦労してたのが馬鹿みたいじゃないか……」
そして55階層。
勇者パーティーはセーフティーゾーンに入った。
「ここで昼飯にするか」
「賛成」
「じゃあ休もう」
全員が腰を下ろす。
セーフティーゾーンには魔物が入ってこない。
しかも、このダンジョンでは毎日ホテルに戻って眠ることができる。
翌朝になれば、またダンジョンへ来ればいい。
勇者が水を飲みながら呟いた。
「毎日帰ってホテルで寝られる」
「ああ」
「しかも途中には安全に休める場所まである」
戦士が周囲を見回す。
「ぬるすぎるな」
「だよな」
勇者パーティーは笑っていた。
その会話を聞いていたSランクパーティーの一人は、思わず頭を抱えた。
「……まじか、こいつら」
Aランクモンスターが徘徊している階層での会話とは思えなかった。
自分たちは一歩進むだけでも慎重になっていたというのに。
それからも勇者パーティーの進行速度は落ちなかった。
56階層。
57階層。
58階層。
59階層。
そして――
「60階層だ」
ついに60階層へ到着した。
巨大な扉の前に立つ。
勇者パーティーが扉を開ける。
その先にいたのは――
三つの頭を持つ巨大な魔物。
ケルベロスだった。
Sランク冒険者が三組は必要。
そう判断されていたほどの存在だ。
「ケルベロスです。気をつけてください」
後ろからSランク冒険者が声をかける。
勇者はケルベロスを見ながら答えた。
「大丈夫だ」
「……え?」
それだけだった。
勇者が剣を構える。
仲間たちも武器を構えた。
そして――
戦闘が始まった。
「行くぞ!」
勇者が突っ込む。
ケルベロスが三つの頭を同時に動かし、勇者へ襲いかかる。
その瞬間。
「今!」
戦士がケルベロスの横から攻撃を叩き込む。
魔法使いの魔法が飛ぶ。
僧侶が勇者の動きを見ながら支援する。
今までの勇者パーティーとは違った。
初めて、四人が明確に連携していた。
「そこだ!」
勇者がケルベロスの攻撃をかわす。
戦士が隙を作る。
魔法使いがそこへ魔法を叩き込む。
ケルベロスが怯んだ。
「終わりだ!」
勇者の一撃が入る。
「グォォォォ!」
ケルベロスが咆哮する。
だが、勇者パーティーは止まらない。
攻撃。
回避。
連携。
また攻撃。
ケルベロスが反撃する隙すら与えない。
「……嘘だろ」
Sランク冒険者が呟いた。
「ケルベロスが……」
一方的に押されている。
そして――
最後の一撃。
ケルベロスが倒れた。
「……勝った」
誰かが呟く。
勇者パーティーは互いの顔を見合わせた。
「思ったより楽だったな」
「そうだな」
「もっと強いと思ってた」
Sランク冒険者たちは言葉を失っていた。
そして、ケルベロスのドロップアイテムが現れる。
魔法剣。
高性能な防具。
希少な素材。
どれも普通なら一生かけても手に入らないような代物だった。
「勇者様、これはかなり価値があります」
「いらない」
「え?」
「俺たちには必要ない」
勇者はあっさりと言った。
Sランク冒険者たちは互いの顔を見る。
いらない。
この男は、本当にそう言った。
「勇者最高……」
誰かが小さく呟いた。
「一生付いていきます……」
そんな気分だった。
その一部始終を、アレンはマスタールームから見ていた。
「……なるほど」
勇者パーティーの戦いを最後まで見届ける。
ケルベロス。
本来ならSランク冒険者三組が必要だと判断されたボス。
それを、勇者パーティーはほとんど苦戦することなく倒した。
アレンは画面を見ながら呟いた。
「次はSSランクの番だけど……」
少し考える。
「無駄だな」
60階層に配置したケルベロス。
それをあっさり倒した勇者パーティー。
なら、その先に用意した相手は――
「こいつらには、もう強敵として成立しないかもしれないな」
アレンは画面の向こうにいる勇者たちを見ながら、次の階層について考え始めた。




