勇者パーティーの実力
一行は順調に階層を進んでいった。
30階層。
31階層。
32階層。
そして――
37階層。
「ここです」
Sランクパーティーのリーダーが足を止めた。
「37階層は、Cランクボスの中でも一番の難所です」
ここから先は、これまでとは明らかに違う。
Sランクパーティーですら、初めて挑んだ時にはかなりの準備をした。
特に魔法対策は徹底した。
魔攻、魔防に優れた装備を揃え、ようやく攻略した相手。
「ここは俺たちも装備を整えて挑んだ場所です」
勇者がボス部屋の扉を見る。
「そうなのか」
しばらく眺めたあと、勇者が言った。
「じゃあ、全員ソロで挑まないか?」
「……全員?」
Sランクパーティーが聞き返す。
「勇者パーティー全員で、それぞれ一人ずつ?」
「そう」
あまりにも軽い口調だった。
Sランクパーティーのリーダーは少し考えた。
自分たちが魔攻と魔防に優れた装備を揃えて、ようやく倒した相手だ。
その相手に一人で挑む。
普通なら無謀だ。
だが――
「勇者について行ってもいいですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます」
勇者が笑う。
そして一言。
「邪魔しないでね」
「……はい」
勇者がボス部屋へ入った。
扉が閉まる。
Sランクパーティーも、その後に続いた。
部屋の中央にいたリッチが動き出す。
杖が掲げられる。
大量の魔法が放たれた。
「来る!」
Sランクパーティーが身構える。
だが――
勇者は逃げなかった。
剣を構える。
飛んでくる魔法を、次々と切り裂いていく。
一つ。
二つ。
三つ。
迫り来る魔法を切り払いながら、そのままリッチへ接近する。
「……嘘だろ」
リッチがさらに魔法を放つ。
それすら切り裂く。
そして――
勇者の剣が振り抜かれた。
リッチが崩れ落ちる。
「終わり」
勇者が剣を収める。
「……」
Sランクパーティーは時計を見る。
「20秒……くらい?」
誰かが呟いた。
あまりにも短い。
自分たちが苦戦したリッチが、ほとんど何もできずに倒された。
「……まあ、勇者だからな」
リーダーが呟く。
「勇者だけ特別なんだ」
自分に言い聞かせるように。
「そうだ。勇者だからだ」
そう思えば、まだ理解できる。
勇者という存在だけが規格外なのだ。
そういうことにしておきたかった。
すると――
「次、私が行きます」
聖女が前へ出た。
「え?」
Sランクパーティーが振り返る。
聖女がボス部屋へ入る。
リッチが再び動き出した。
魔法を放とうとする。
聖女は杖を掲げた。
「聖なる光よ」
聖魔法が放たれる。
次の瞬間。
リッチの身体が光に包まれた。
「……え?」
即座に浄化された。
戦闘終了。
「……」
Sランクパーティーは固まった。
聖女が戻ってくる。
「次は私の番ですね」
賢者がボス部屋へ入った。
「いや、ちょっと待ってくれ」
もう何を見せられるのか分からない。
リッチが動く。
魔法が放たれる。
賢者が手を掲げた。
結界が展開される。
放たれた魔法は、結界に阻まれて消えた。
「なるほど」
賢者はリッチを見つめる。
「この程度ですか」
次の瞬間。
賢者が反撃の魔法を放つ。
一撃。
リッチは倒れた。
「……」
Sランクパーティーは、完全に言葉を失っていた。
勇者だけではない。
聖女も。
賢者も。
それぞれが一人で、37階層のボスを簡単に倒してしまった。
「……一騎当千」
リーダーが呟く。
勇者だけが特別なのではない。
聖女だけでもない。
賢者だけでもない。
一人ひとりが、単独で戦況をひっくり返せるほどの力を持っている。
そんな者たちが――
「パーティーを組んでるのか……」
Sランクパーティーの誰かが呟いた。
勇者。
聖女。
賢者。
そして、他の仲間たち。
全員が人類最高峰の戦力。
それが勇者パーティーだった。
魔王が現れた時。
人類が最後に頼ることになる存在。
「……これが」
リーダーは勇者たちを見る。
「人類の切り札なのか」
さっきまで抱いていた疑問は、もう消えていた。
なぜ自分たちが戦闘を任されなかったのか。
なぜ2億円もの報酬で、道案内と荷物持ちだけを頼まれたのか。
理由は、嫌というほど分かった。
この人たちにとって、自分たちは戦力ではない。
そして――
それを実際に目の前で見せつけられてしまった。
Sランクパーティーは、勇者パーティーの後ろへ静かに戻った。
「次、行こうか」
勇者が何事もなかったかのように言う。
「……はい」
Sランクパーティーは頷いた。
一日10階層。
その予定が、急に現実味を帯びてきた。




