Sランクパーティーがポーター
Sランクパーティーは、ギルドの応接室へ案内された。
「こちらが今回、案内をお願いする方々です」
ギルド職員が紹介する。
「勇者パーティーの皆様です」
「勇者……」
Sランクパーティーは、一斉に顔を上げた。
噂では何度も聞いたことがある。
魔王が現れた時、世界の命運を背負って戦う存在。
だが、実際に姿を見るのは初めてだった。
「よろしくお願いします」
勇者が笑顔で挨拶する。
「こちらこそ」
Sランクパーティーも挨拶を返す。
その瞬間だった。
――何だ?
Sランクパーティーの全員が、言葉にできない違和感を覚えた。
目の前にいるのは、普通の人間に見える。
体格も特別大きいわけではない。
威圧しているわけでもない。
それなのに。
本能が告げている。
――格が違う。
自分たちとは、何かが違う。
生物としての格そのものが違う。
「……」
Sランクパーティーは無意識に姿勢を正していた。
ギルド職員が依頼について説明する。
「皆様には勇者パーティーのダンジョン攻略に同行していただきます」
「はい」
「仕事は道案内です。戦闘への参加は必要ありません」
「……戦闘は不要?」
「はい」
さらに続ける。
「それと、荷物持ちをお願いします」
Sランクパーティーは顔を見合わせた。
自分たちはSランク冒険者。
それが今回の仕事は道案内と荷物持ち。
「勇者パーティーが攻略するんですよね?」
「そうです」
「俺たちは案内するだけ?」
「はい」
ますます意味が分からない。
そして攻略計画を聞かされる。
「30階層から開始します」
「30階層……」
「目標は一日10階層です」
「10階層?」
「はい。毎日10階層進み、その日のうちにホテルへ戻って宿泊します」
Sランクパーティーは絶句した。
――ダンジョンを舐めている。
最初にそう思った。
30階層から先は、簡単な場所ではない。
ましてやSSSランクダンジョンだ。
一日10階層進むなど、いくら勇者パーティーでも無理だろう。
「本当にその予定で?」
「はい」
勇者は当然のように答えた。
Sランクパーティーは、それ以上何も言わなかった。
勇者パーティーなのだから、何か特別な方法があるのかもしれない。
そう思うことにした。
そして翌日。
一行はダンジョンへ向かった。
まずはエレベーターに乗り込む。
「30階層までお願いします」
操作すると、エレベーターが動き始めた。
「……」
Sランクパーティーは緊張していた。
30階層。
ここから先は、明確に空気が変わる。
やがてエレベーターが止まった。
扉が開く。
「では行きましょう」
勇者が歩き出す。
Sランクパーティーも続く。
そして――
勇者パーティーは、何の打ち合わせもせずにボス部屋の前まで来た。
「ここですね」
勇者が扉を見る。
「では」
「え?」
Sランクパーティーが声を上げるより早く、勇者が扉を開けた。
「ちょっと待って!」
慌てて後を追う。
ボス部屋へ入った瞬間。
巨大なボスが動き出した。
「来るぞ!」
Sランクパーティーのタンクが叫ぶ。
ボスが勇者へ向かって突進する。
タンクが前に出た。
「俺が受ける!」
巨大な大盾を構える。
ドンッ!
凄まじい衝撃が響く。
普通なら、その一撃だけでも吹き飛ばされかねない。
だが、タンクは微動だにしない。
「今です!」
その隙に勇者が動いた。
一閃。
巨大なボスの身体が切り裂かれる。
「……え?」
Sランクパーティーが呆然とする。
戦闘開始から、ほんの数秒。
ボスは倒れた。
勇者は剣を収める。
「終わりましたね」
「……」
Sランクパーティーは言葉が出ない。
すると、仲間の一人が笑った。
「勇者、Cランクボスごときに本気出しすぎだろ」
「いや、今のは念のためだ」
「念のためにあれかよ」
「だって一応ボスだぞ?」
勇者パーティーの間では、そんな会話が普通に交わされている。
Sランクパーティーは、倒されたボスを見る。
そして勇者を見る。
「……Cランクボス」
思わず呟いた。
自分たちにとっては、決して軽く見られる相手ではない。
それを――
「ごとき……?」
何もかもがおかしい。
30階層までエレベーターで移動する。
打ち合わせなしでボス部屋へ入る。
戦闘は数秒。
そして、勇者たちはそれを「本気を出しすぎた」と笑っている。
Sランクパーティーのリーダーは、ようやく理解し始めていた。
自分たちが今回、なぜ戦闘要員ではなく「道案内」と「荷物持ち」なのか。
理由は簡単だった。
――戦力として必要とされていない。
「……俺たち、本当に案内だけでいいんだな」
誰かが呟いた。
「そういう依頼だっただろ」
返事は返ってきた。
だが、その声にはいつもの自信がなかった。
Sランクパーティーは、勇者パーティーの後ろを歩き始める。
そして思った。
この人たちなら、本当に一日10階層進むのかもしれない。
そんな予感がしていた。




