ダンジョンの拡張
アレンは、ダンジョンコアのモニターを眺めていた。
画面に映っているのは、一階層を探索している冒険者たちだ。
今日も初心者らしいパーティーが、慎重にダンジョンを進んでいる。
「……あれ?」
アレンは、モニターの一角を見て眉をひそめた。
一階層にいる冒険者の数が多い。
それに対して、モンスターの数が少ない。
一匹のモンスターを発見すると、周囲にいた冒険者たちが一斉に集まってくる。
「俺たちが先に見つけた!」
「いや、先に追いかけてたのは俺だ!」
「お前たちは横から来ただけだろ!」
「それなら倒した奴のものだ!」
モンスターを巡って、冒険者同士が揉め始めた。
そして――。
「だから、俺が追いかけてたモンスターだって!」
「うるさい!」
冒険者同士の喧嘩が始まった。
アレンはモニターを眺めながら、別の画面に表示されているポイントへ目を向ける。
「……おお」
数字が増えている。
しかも、普段より明らかに増え方が大きい。
モンスターを倒して得られる魔石による収入とは別に、冒険者がダンジョンに滞在することで入るポイントがある。
だが、冒険者が他の冒険者から攻撃を受けてダメージを負うと、ダンジョンにもポイントが入る。
そして、そのポイントは滞在によって入るポイントとは比べものにならないほど大きかった。
「喧嘩、めちゃくちゃ儲かるじゃん」
アレンは思わず笑った。
一発殴られる。
ポイントが増える。
さらに殴られる。
またポイントが増える。
「これ、モンスターを増やすより効率いいんじゃないか?」
アレンはしばらくモニターを眺めていた。
ダンジョン経営ゲームとして考えれば、とんでもない高収益イベントである。
客同士が勝手に争って、ポイントを大量に落としてくれる。
しかも、ダンジョン側は何もしていない。
「……最高じゃないか」
アレンはそう思った。
しかし、次の瞬間には別のことを考える。
「いや、待てよ」
客が喧嘩する。
怪我をする。
その結果、大量のポイントが入る。
それ自体はいい。
だが、ここに来た冒険者たちが、
「このダンジョン、モンスターが少なくて冒険者同士で取り合いになるぞ」
「他の冒険者に殴られるから危険だ」
そんな噂を広めたらどうなるだろう。
「……客が来なくなったら意味がないな」
アレンにとって、冒険者は客だ。
客が来なければ、ポイントも増えない。
一時的に大量のポイントを稼ぐことより、毎日少しずつでも客が来る方が重要だ。
「やっぱり、客同士で喧嘩になるほどモンスターが少ないのは駄目だな」
アレンは経営者のような顔でモニターを見つめた。
「ダンジョンコア」
『はい』
「今のポイントで何ができる?」
『現在のポイントでは、新しい階層の作成はできません』
「新しい階層はまだ無理か」
アレンは少し考える。
『ただし、既存の階層を改良することは可能です』
「どんなことができる?」
『階層を拡張できます。また、拡張した空間にモンスターを追加配置することも可能です』
アレンの目が輝いた。
「それだ」
新しい階層を作れなくても構わない。
今あるダンジョンを使いやすくすればいい。
「一階層と二階層を広くして」
『必要ポイントを計算します』
しばらくして、必要なポイントが表示された。
アレンは数字を確認する。
「払えるな。それでやってくれ」
『了解しました』
「あと、モンスターも増やして」
『一階層、二階層ともに追加可能です』
「できるだけ増やして」
ポイントが減っていく。
その代わり、モニターに映る一階層の地形が変化していく。
狭かった通路が広がる。
部屋が増える。
そして、新しい場所にモンスターが配置されていく。
アレンは、その様子を楽しそうに眺めていた。
「これだよ、これ」
新しい施設を建設する。
客の不満を解消する。
客が増える。
さらに収益が増える。
ゲームとして考えれば、非常に分かりやすい。
「最初は十階層までしか作れなかったけど、今ある階層を改良するだけでも結構できるんだな」
アレンは満足そうに頷いた。
そして、もう一つ気になっているものがあった。
ガチャだ。
現在、ガチャから出てくる商品にも、冒険者たちの人気に差が出始めている。
「人気ランキングとか出せる?」
『可能です』
モニターに商品一覧が表示される。
手鏡。
ガラスコップ。
タオル。
コピー用紙。
「この辺が人気なのか」
手鏡は分かる。
冒険者が自分の顔を確認できる道具は、この世界では珍しい。
ガラスコップも、透明なガラス製品そのものに価値がある。
タオルも、冒険者からすれば便利な道具だ。
「コピー用紙は……何に使ってるんだ?」
アレンにはよく分からなかった。
紙そのものが珍しいのかもしれない。
「まあ、人気ならいいか」
アレンは深く考えないことにした。
ゲームでも、プレイヤーが何を気に入るかは実際に遊ばせてみないと分からない。
だったら、人気がある商品を残しておけばいい。
「モンスターを増やして、階層を広くして、人気のガチャを用意する」
アレンはモニターを眺めながら、今後のことを考える。
客が来る。
ダンジョンを探索する。
モンスターを倒す。
魔石を手に入れる。
ガチャを回す。
滞在時間が増えればポイントが入る。
運が悪ければ、冒険者同士の喧嘩まで始まって大量のポイントが入る。
「……喧嘩はほどほどにしてもらうとして」
アレンは苦笑する。
「客が長く遊べるダンジョンにしていけばいいんだな」
そして、またポイントが貯まったら設備を改良する。
新しい商品を試す。
モンスターの数を調整する。
冒険者の反応を見る。
「やっぱり、ダンジョン経営ゲームって面白いな」
アレンは椅子に座ったまま、満足そうにモニターを眺めていた。
現実世界なら、建物を建てるにも金がかかる。
人を雇うにも金がかかる。
店を経営するなら、失敗すれば自分の金が消える。
だが、このダンジョンでは違う。
冒険者が遊びに来る。
冒険者がポイントを落としていく。
そのポイントを使って、さらにダンジョンを改良できる。
「よし」
アレンは新しくなった一階層を見ながら頷いた。
「今回の設備投資は成功だな」
次にポイントが貯まったら、何を改良しようか。
アレンは早くも次の投資先を考え始めていた。




