レイド推奨のボス
Sランク冒険者たちは、60階層へ続く扉の前に立っていた。
「……本当に開けるのか?」
「ここまで来たんだから、確認だけはする」
全員が武器を手にしている。
だが、いつもの攻略前とは明らかに様子が違った。
慎重というより――びくびくしている。
その理由は一つ。
この先には、以前までエンシェントドラゴンがいた。
もし移動したことを知らずに扉を開けて、目の前にあの巨体がいたら。
「エンシェントドラゴンだったら、即撤退だ」
「異論なし」
「戦うなよ。絶対に戦うな」
全員が頷く。
そして、リーダーがゆっくりと扉を開けた。
ギィィ……。
「…………」
「…………」
全員が固まった。
しかし、そこにいたのはエンシェントドラゴンではなかった。
巨大な三つの頭。
鋭い牙。
燃えるような六つの目。
「……ケルベロスだ」
誰かが小さく呟いた。
Sランク冒険者たちは、しばらくケルベロスを観察する。
「エンシェントドラゴンじゃない」
「ああ」
「なら……」
リーダーは仲間たちを見る。
「これなら、レイドパーティーなら戦える」
一人で戦う相手ではない。
しかし、複数のSランクパーティーが集まれば、勝負になる可能性はある。
「戦力を揃えてから来るべきだな」
「こいつの攻撃方法も分からない。ここで戦う必要はない」
「ギルドに情報を持ち帰って整理しよう」
全員が納得した。
そして――
ケルベロスとは一切戦わず、そのまま引き返した。
扉が閉じる。
60階層には、ケルベロスだけが残された。
一方、マスタールーム。
「…………え?」
アレンは呆然としていた。
「帰った?」
せっかくSランクパーティーが来た。
しかも新しく配置した60階層のボスを見に来た。
アレンとしては、当然戦闘が始まると思っていた。
「戦わないの?」
アレンはダンジョンコアの映像を見ながら肩を落とす。
「せっかく来たのに……」
Sランク冒険者とケルベロス。
どんな戦いになるのか楽しみにしていたのだ。
「残念だなぁ」
アレンにとっては、完全に観戦イベントだった。
しかし、冒険者側にはそんな事情など知る由もない。
Sランクパーティーは、急いでギルドへ戻った。
「60階層のボスを確認した」
ギルド職員が驚く。
「まさか……エンシェントドラゴンでは?」
「違う。ケルベロスだ」
「ケルベロス……」
報告を受けた職員が記録を取っていく。
Sランク冒険者たちは、確認した情報を一つずつ伝えていった。
エンシェントドラゴンではなかったこと。
ケルベロスが配置されていたこと。
実際に戦闘はしていないこと。
そして最後に、リーダーが告げる。
「俺たち一パーティーだけでは厳しい」
「では、攻略は不可能ということですか?」
「いや」
リーダーは首を横に振る。
「三つのSランクパーティーによるレイドなら、戦えると思う」
ギルド職員が目を見開く。
「Sランクパーティーを……三つ?」
「ああ」
「…………」
ギルド職員は頭を抱えた。
理屈としては分かる。
三つのSランクパーティーが協力すれば、ケルベロス攻略の可能性はある。
問題は――
「Sランクパーティーを三つ集めるのが、ものすごく難しいんですよ」
「そうだろうな」
Sランク冒険者たちは苦笑する。
Sランクともなれば、それぞれが自分たちの活動を持っている。
依頼の予定も違う。
拠点も違う。
仲の良いパーティー同士ならともかく、三パーティーを同じ日に同じ場所へ集めるとなれば、それだけで大仕事だ。
「まあ、まずはギルドから声をかけてもらうしかないな」
「分かりました。特別手当についても申請しておきます」
「助かる」
こうしてSランク冒険者たちは、危険な60階層を調査した功績として特別手当を受け取ることになった。
一方その頃。
アレンはまだ、60階層の映像を眺めていた。
「三パーティーか……」
Sランク冒険者たちの会話を聞きながら、アレンは少し楽しそうに笑う。
「今度はちゃんと戦ってくれるかな?」
60階層のケルベロスは、何も知らずにその場で冒険者を待ち続けていた。




