3話 革命前夜
『お前となんか……絶対結婚しないからな!』
暗闇に揺らめく蝋燭の日は、いらぬ過去へと私を誘う。
3話 革命前夜
「サブリナ様、まだ起きていらしたのですか。」
「ハンス……。」
自室で眠れずにいると、ハンスが様子を見に来る。
「もうお休みください。明日は決戦です。特にサブリナ様は危険な役割、何かあれば私は……。」
「ハンス。」
無の感情で、ハンスの目尻の下がった瞳を見つめる。
「あなた、何故私を愛しましたの?」
ハンスはキョトンとした後、暗闇でもわかるほど頬を赤らめる。
「な、何故って……サブリナ様は昔からお美しく、正義感が強く、聡明で、いつも私を導いてくださり……。」
「殿下は好まれなかったわ。」
ふ、と窓に視線を移し、王宮を見つめる。
「殿下は、私を愛さなかった。」
呼吸が乱れそうになるのを必死に抑える。
ハンスは口を閉ざす。沈黙の間、羽虫だけが蝋燭に近づく。
「殿下は常日頃から私を煩わしく感じられていて……。
私とは結婚しない、成人の儀の前はよくおっしゃってました。殿下を愛していた、とは……言えませんが……成婚して、子を設けて、歳を重ねて……そうしたら、いつか、と……。」
「サブリナ様!」
ハンスは跪き、サブリナの手を両手で優しく包み込む。
「このハンス、何があってもサブリナ様を愛します。おそばを離れることもいたしません!あなたに……寂しい思いはさせません……。」
(ですから、これからは私だけを……。)
「ハンス……。」
唇が重なる。
羽虫は蝋燭から離れず、火の粉とワルツを踊っていた。
『わがままを通したいのなら、それだけの力と知恵をつけてくださいませ!』
(サブリナ……。)
カーテンの隙間から、ポリニャック邸の方角を見つめる。
(あいつは、いつだって正しかった……。)
成人の儀の前日、私は成人の責任の重圧に耐えかね、教会に逃げ込み泣き叫んでいた。
私は、自由に恋がしたかった。
だが、王太子である限り、それは許されなかった。
『私は王太子様のこと、とても逞しく魅力的に思います。』
フローラは、どこにでもいる女だった。
何かが秀でているわけでもない。
覚えているのは、丸い顔と、軽い言葉だけだ。
それでも――。
(『愛している』と言ってくれた……。)
サブリナはついぞ口にしなかった。
2人で出かけることもなかった。
フローラは私が入れなかったパブやクラブに連れて行ってくれた。
楽しかった。
だから、私は腹をくくれたんだ。
この国を背負って立つと、この夜のことを忘れないと、そして、私の世界を変えてくれたフローラを愛すると。
(それでも、お前が一言『愛している』と、言ってくれれば……。)
窓を拳で殴る。鈍い音が返る。
そのまま、膝が崩れた。
――今さらだ。
あれほど鬱陶しかった女の顔が、離れないまま夜が明ける。




