2話 花畑の駆け引き
「殿下、お話がありますわ。」
「……サブリナ。」
ペルジェ王国一美しい庭園、小ヴェルリナ宮。
手入れはされているが、華やかさはない。
慎ましく咲く色とりどりの花々は、全国民の憧れだった。かつては。
二人の間には、コスモスの花びらがひらり、ひらりと舞う。
「殿下、今のこの国の状況はご存知?」
アレンはふ、と笑うと読んでいた本を閉じた。
「サブリナ、知っているか?今この国のベストセラーだ。王政が陥落して皆が平等な世界を作り上げる。なんともロマンのある話だ。」
「それが市民の総意ですわ。早く手を打たないと、その本のようになるのはあなたですわよ?」
アレンは頬杖をつき、挑発するようにサブリナを見る。
「今この国の財政は火の車だ。サバナ共和国の独立戦争に出資していたからな。そこで王都流通商会だ。市場の独占を許す代わりに、たっぷり税金をいただく。貴族からも文句は来ない。いい手だろう。」
「国民を飢えさせて得た財の何に意味がありますの?今からでも貴族から税を取るべきですわ。体裁など気にしている場合?」
「……お前はいつも正しい。昔からな。」
アレンはふ、と地面に視線をずらした。
「王太子たるもの勉強を惜しむな、武の鍛錬を欠かすな、好き嫌いはいけない、あとは、なんだったかな。」
「何をおっしゃりたいの?」
サブリナは静かに足を踏み鳴らす。
「子供であれば誰だって遊びたいだろう。稽古も抜け出すし、好きでもない婚約者からも逃げる時もあるさ。だが大人になれば違う。個人的な好き嫌いでお前を遠ざけることはしない。――昔のようにはな。」
「私との婚約を破棄しておいて?」
サブリナの頬はぴくりとひきつる。
「フローラはあれで格式高い女だ。没落した名家、アルベール王朝の血を引くもの。」
「ポリニャック家との関係を切っても?」
「アルベール王朝に連なる数々の名家や国からの信頼が得られる。処刑は最初から逃がすつもりだった。実際泳がせてやったろう?」
「今回は殿下の手のひらには収まらなくてよ?」
「自分の肩にかかったものの重さぐらい分かっている。うかつに動けばこの国が崩壊しかねないこともな。」
「守れる手が他にあったら?」
サブリナが1歩踏み込むと、アレンも顔を上げる。今、逃げ場はもうない。
「やるさ。貴族も、市民も飢えさせない手があるからな。これでも次期国王だ。あまり舐めない方がいい。」
「その言葉、本気ですわね?」
サブリナはニヤリと笑う。
「このアレン・ジョセフ・ド・ペルジェ、次期国王の名に誓って。」
2人の視線が絡み合う。どちらともなく微笑みあった。
「殿下は自分につく臣下をお集めになって。私はハンスと反国王派を集めますわ。」
「ほう。今度は私の名を悪用する気か。悪い女だ。」
「今更でしょう?」
サブリナはアレンの手にある本に手を伸ばす。
「革命が避けられないなら……。」
それを取り上げ、掲げた。
「こちらから起こせばいいのですわ。」




