1話 革命の火花
「きゃっ!」
馬車で屋敷に移動中、襲われた。
それも、覆面でも盗賊でもない。
見慣れた、王都の服を着た男だった。
「国王の犬め!!毎日いいもの食って暮らしてんだろ!!俺ん家は今日もパンの一切れがやっとなのによ!!」
乱暴に髪の毛を掴まれる。
痛い。けど、抵抗するわけにはいきませんわ。
……悪いのは、この人達じゃない。
「貴様!何しているか!」
ハンス……。
王都の警備についていたハンスが駆けつけた。
「サブリナ様!?」
怒ってはいけません。ハンス。
「貴様、その方を傷つけるとは、市民とて許さぬ!」
「はっ!許してもらうつもりもねえなあ!俺たちは貴族を憎んでる。誰もこの女を助けねえだろ?それが証拠さ!」
ハンスははっと気づくと周りを見渡す。
私たちを見る市民の方々の目は、冷ややかなものだった。目をそらすもの、小さく笑うもの、私たちの味方はいなかった。
「申し訳ありません。」
私は初めて口を開いた。
「市民の方々を守る立場でいながら、役目を果たせていないこと。貴族として恥ずかしく思いますわ。」
「はっ、命乞いったってそうはいかねえよ!」
髪をぐっと掴まれたまま、上を向かされ市民と目が合う。
「貴様!!」
すっ、とハンスを睨み、制する。
「あなた、ご家族はお元気?」
「はあ!?元気なわけあるか!毎日毎日ろくなもん食えねえで……ガキはガリガリになっちまった!」
持ち合わせの金貨をすっと差し出した。
男は一瞬躊躇う。貴族からの施しなんて受け取るようには思えない。ほんの一瞬、言葉を選ぶ。
「これでパンをお買いなさい。肉も、魚も、野菜も。お子さんにも精のつくものが食べさせられますわ。
まずはお子さんの食べるものをお考えなさい。」
躊躇いながらも市民は金貨を受け取り、私を離した。
髪を整えることもせず、遠巻きに見ていた市民に語りかける。
「皆さん、ポリニャック家は次の金の曜日から、炊き出しをはじめますわ。
準備は進めていたが、前倒しにします。肉も野菜も入ったスープとパンを配ります。限りはありますが、貴族としての役割を果たさせてくださいませ。」
おー、と市民の方々から称賛の声が上がる。反面、罵倒も聞こえた。
「そんなの一時しのぎだ!今のパンの値段を知ってるのか!?」
ゴミを投げるもの、罵倒をかぶせるもの、市民たちの熱は上がっていった。
「物価の件も必ず陛下に伝えます。ですから、ここはどうか収めてくださいませ。」
ぐっと黙る市民たち。
深々とお辞儀をすると、ハンスは私を馬車に連れ込み、その場を後にする。
「サブリナ様!無事でよかった。怖かったでしょう?」
「怖いに決まっています。しかし、今は私より国ですわ、ハンス。この辺りで私が公爵家であることは周知の事実のはず。」
「なんて無礼な……必ず逮捕します。」
「おやめなさい。そういう問題ではありませんわ。市民は貴族を敬う気持ちが薄れてますわ。私たち公爵家でこれなら、恐らく王家も。」
「なっ、そんな……!では放っておけば……。」
私は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
「そう、革命ですわ。」
革命、その言葉に空気が凍る。
「ハンス、あなたはこのまま仕事を続け、世間話を聞き出しなさい。軍には市民の出もいるでしょう。私は貴族の夫人達から情報を集めますわ。」
「承知しました。しかし。」
席に置かれた私の手を、ハンスは優しく握り込む。
「このハンス・グザヴィエ・ド・ギーシュ。危なくなれば国より何よりサブリナ様を取ります。
……もしもの時は、です。私は……あなたを守るためにここにいる。」
「ありがとう、ハンス。心配しないで。無理はしませんから。」
殿下からもお話を聞かなくては。この状況をどう思っているのか。
ハンスの熱を感じながら、私たちは帰路に着いた。




