第二章五話 秋の変化
憂鬱な気分で下駄箱の扉を開き上靴に履き替えていると、月桂が登校してきた。月桂が下駄箱の扉を開けるとき、いつもの癖で髪を耳へかけると顳顬の辺りが痣になっているのが見えた。
「月桂どうしたのそれ」
「あぁ、向日葵おはよう」
「お、おはよう。で、どうしたのそれ」
「ごめんね話したくない」
そう言うと月桂は足早に教室へと向かっていった。
きっと冬香がやったのだろう。彼女があそこまでできる奴とは思ってもみなかった、何か手を打たなければ月桂が死んでしまうかもしれない。
私の手は恐怖で小刻みに揺れていた。
「おはよう向日葵」
「ひゃっ」
不意を突かれ変な声がでてしまった。椛も驚いたらしく、手に持っていた鞄を落としていた。
「ごめん、びっくりしちゃって」
「ううん、こっちこそごめん。何か考えごと」
「うん、冬香のことで」
「あぁ、あの子ね。ちょっと目に余るよね」
「そうなんだよね。どうにか止めさせたいんだけどね」
「そう、だね」
どこか引っかっかる答えを引き連れ教室に入ると月桂の姿がないことに気がつく。
「あれ、月桂がいない」
「え、本当だトイレかな」
教室中を見回すと冬香の姿もない。
「まさか」
私は人が滅多に通らない南校舎の四階西トイレへと向かった。
「月桂」
勢い良く入った先には冬香が月桂の頭にバケツいっぱいの水を掛ける光景が広がった。
「あんたいい加減にしなさいよ」
詰め寄っていく私に気づき冬香が振り向く。そして私は彼女の胸倉を掴んだ。
「あのさ向日葵ちゃん、私言ったわよね、貴女が私のやることにケチをつけたら月桂への行為を過激にするって。虐めを考えるのも楽じゃないのよ、わかる」
「わかるわけないでしょ、わかりたくもないわよ。考えるのが大変っていうなら、そんなこともう止めちまえそんな誰も得をしないこと」
あまり普段から声を張ることがないので、過呼吸ぎみになりながら最後まで言い終える。
「はぁ?あんたまでなに調子づいてんの。うざいんですけど。あぁいいわ貴女も月桂と一緒に分からせて欲しいんだ。良いわよその願い、叶えてあげるわ」
冬香が拳を振り上げ、私の頭へと振り下ろした。急いで走って来たたことに加え、大声を出したせいで私の身体は言うことを聞いてくれない。
こんなことならもっと体力を付けておけばよかったな。そんなことを思った直後に椛の声がトイレに響き渡った。
「止めて冬香」
冬香は手をピタリと止め、椛に睨みを利かせる。
「も~み~じ~ちゃん、誰にむかって」 パシンッ
冬香の頬が赤く染まっていき、それと同時に瞳から雫が流れ落ちていく。
「うるさい」
「…はい」
冬香はまさか手を上げられるなどとは思っていなかったらしく、酷く困惑していた。
「椛ありがとう」
「…うるさい」
「え」
椛はづかづかと月桂の下へと歩いて行く。
「げほっげほ」
「無様だね月桂」
「椛、おはよう。ゲホッゲホッ」
「っち、そういうところだよ月桂」
椛の面持ちは今までに見たことのないものだった。
「私ね、貴女には感謝してるのよ。でもね、貴女のそういう余裕綽々なところが大っ嫌いだったの」
「そうだったの、ごめんなさい。ゲホッゲホッ」
「だーかーらー、そういうところだよ」
怒号が響きく。耳を劈かんばかりだ。
椛は息を整えてから続ける。
「貴女はいい子すぎるの。見ているこっちが惨めになる。だからね、貴女が虐められ始めて心が楽になったの。ひどいよね、ごめん」
数分間を空け口を開いたのは冬香だった。
「あの、喋ってもよろしいでしょうか」
彼女の声は震えていた。だが恐怖ではなく興奮している風貌だった。
「…いいよ、貴女にもほんの少しだけ感謝してるから」
「その、だったらこれからも、続けてもいいんですよね、虐め」
「…続けるよ、続ける。ただ、」
椛は大きく深呼吸をした後に続けた。
「これからは私が主体となってやる」
次回、桜吹雪




