97.兄ちゃん、妹ができる
「やっぱりここは実演の方がいいですよね」
ミレイユ団長に伝わらないなら、実際に見てもらった方がいいだろう。
デパートとかで調理器具の実演販売を見て、買っていく主婦たちって多かったからね。
「ソウタ、私は城の料理人に予定を聞いてきますね」
「あっ、お願いします」
僕を魔法師団に送り届け、合体家事魔法の説明を終えたエリオットさんは部屋を後にした。
「じゃあ、その合体家事魔法ってやつを見せてもらおうか」
僕たちはミレイユ団長に付いていき、魔法の研究をしている部屋の中に入っていく。
「なにこれ……。見た目よりもかなり広いんですね」
外から見た時は普通の部屋にしか見えなかったのに、中は体育館程度の広さがある。
さすが室内で魔法を実験できる規模の大きさだ。
「空間魔法を使って、この部屋全体を魔道具にしているからね」
調理器具以外で聞く魔道具という言葉に僕は魅了された。
クローゼットや倉庫が広くできたら、それだけでも収納が楽になる。
黒翼騎士団には倉庫はないし、収納場所も少ないから、片付けられないのもある。
決まったところに片付けができるだけで、家の中は綺麗に保てるからね。
「本当に魔法って便利ですね」
「魔法が発展して、全ての人が使えるようになるのが私の夢だからな」
ミレイユ団長は魔法が一般的になるのが夢だと語っていた。
そのためにも魔法の研究をしているらしい。
「じゃあ、その一人目が僕になるといいな」
魔法が使えるようになるためには、世界樹の実を食べないといけない。
食べることで人体にどんな影響を与えているかはわからないが、それを再現できるようになると、ミレイユ団長の夢が叶うのだろう。
まるで科学にそっくりだ。
「早速だが合体家事魔法を見せてもらおうか」
ミレイユ団長の言葉に、アクエリオスさんとエアリオスさんはお互いに見つめあって頷いた。
「まずはアクエリオスさんが水魔法で水球を出します」
アクエリオスさんが出したのは、ミレイユ団長の洗濯魔法よりも大きな水球。
魔法を制御することだけを考えればいいため、大きさは限りなく限界までできるらしい。
「そこにエアリオスさんの手を入れて、風魔法を発動させます」
エアリオスさんの手から放たれる風魔法で、少しずつ水球の中に渦が出来始める。
「おお、合体家事魔法のオシャレ着モードの有能性はわからないが、魔法としては見たこともない」
ミレイユ団長は目を輝かせて合体家事魔法を見ていた。
本当に魔法が好きな人なんだろう。
「私もやってみようじゃないか!」
そう言って、水球に手を入れたミレイユ団長はすぐに風魔法を送り込んだ。
「やめた方が――」
――パンッ!
僕が止めようと思った瞬間、水球はボコボコと形を変えて、勢いよく破裂した。
ただでさえかなり大きめに出した水球だ。
頭上から滝のように流れる水に僕たちは打ちつけられる。
「ははは、本当に面白い魔法だな!」
嬉しそうに笑うミレイユ団長の声が響く。
「なぁ、ソウタ――」
「あなたって人は……」
だけど、僕の声も負けてないだろう。
「今すぐに座ってください!」
「へっ……」
伝わっていないのかミレイユ団長は首を傾げていた。
その代わりにアクエリオスさんとエアリオスさんがすぐに気づいたのか、彼らが正座で僕の前に座っている。
僕が青翼騎士団の庁舎でうちの騎士たちを怒っているところを見ているからね。
だけど、二人は嬉しそうにニコニコとしていた。
まあ、彼らを怒るつもりはないんだけどね。
「早く座る!」
「はいっ!」
ミレイユ団長は困惑した顔をしながら、僕の前に正座で座った。
「魔法が好きだからって、後先を考えずに使うのはやめてください!」
「なんでダメなんだ? 魔法の研究には失敗がつきものだよ」
「周りに被害があったらどうするんですか! 今回は水だからよかったけど」
ミレイユ団長は周囲を見渡す。
部屋の中は水浸しを超えて、豪雨の後のように少しだけ水が溜まっている。
「あぁ……それはすまない」
ミレイユ団長はやっと自分のやったことに気づいたのだろう。
そこは騎士たちと違って頭の回転が速い。
それに素直に謝れるのはいいことだからね。
「あと女性が男性の前で素肌を出すのはダメです!」
僕は自分の着ていた団服を脱ぎ、ミレイユ団長の肩にかける。
服が透けて中が見えたら、後々嫌な思い出として残ったら困るからね。
「本当に妹みたいに手が焼けますね……」
ミレイユ団長を見ていると、僕の妹を見ているようだ。
特に末っ子の妹は傍若無人で手がかかる子だったからね。
「私が小僧に心配されるとはな……」
「ミレイユ団長、立ってください」
「急に……」
僕はミレイユ団長を立たせると、頭に手を乗せる。
そのまま自分の頭に手を当てて、背丈を比べる。
「今は僕の方が背が高いので、お兄ちゃんです!」
僕は胸を張って、お兄ちゃんアピールをする。
これなら僕がミレイユ団長のことを妹みたいに感じても仕方ないだろう。
「頭を撫でられたのなんて、久しぶりだ……」
しかし、ミレイユ団長の頬は少しずつ赤くなっていた。
「まさか風邪でも引きましたか!?」
滝のように水を被れば風邪を引く可能性がある。
それに今は体も小さいから、免疫力も下がっているかもしれない。
「エアリオスさん、ドライヤー魔法をお願いしま……何ニヤニヤしてるんですか!」
チラッとエアリオスさんとアクエリオスさんを見ると、ニヤニヤと笑っていた。
僕たちを見て何を楽しんでいるのだろうか。
それよりもミレイユ団長が風邪引かないようにする方が大事なのに。
「ドライヤー魔法は温かい風をイメージしてやればきっと――」
「それならこんな感じか?」
さっきよりも低めのミレイユ団長の声が聞こえたと思ったら、春の陽気に近い心地良い風が吹く。
ドライヤー魔法とは少し違うが、これはこれで精神を安定させる魔法なのかもしれない。
まるで丘の上でピクニックしている気分が味わえるからね。
「私は別に風邪を引いてないから気にするな」
そう言って、大人の姿に戻ったミレイユ団長は僕に団服を渡してきた。
「これじゃあ、お姉ちゃんですね」
大きくなったその姿はもう妹には見えないな。
だけど、僕の言葉を聞いてミレイユ団長はニヤリと笑った。
「問題ない。どうせすぐに魔法で失敗するからな」
確かに魔法の実験で失敗するたびに、ミレイユ団長は小さくなっている。
相変わらずどういう仕組みかはわからないけどね。
「じゃあ、ミレイユ団長は僕の妹ですね」
「ああ、それも悪くないかもな」
ニコリと笑ったミレイユ団長の笑顔はどこかくしゃりと笑う妹に似ていた。
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