91.団長、決心する ※エルドラン団長視点
「ソウタは寝たか?」
「今日もすごく可愛い天使のような笑みを浮かべていました」
ゼノがソウタの部屋から嬉しそうな顔をして出てきた。
ソウタが眠るまで待っていたのだろう。
「それでエリオット、俺たちを寝ないように集めたのは何かあったのか?」
俺はグラスに酒を注ぎ、エリオットに渡す。
普段は酒を飲まないエリオットが、自身から「今夜は皆で一杯どうでしょうか」と誘ってきたからだ。
「いただきます」
そう言って、グラスを持つと一気に喉の奥に流し込んでいく。
「おい、エリオット!?」
「エルドラン団長、おかわりをお願いします!」
グラスを置いて、再び俺に酒を注ぐように催促してきた。
エリオットが黒翼騎士団に来てから数年経つが、こんな姿を見たことがない。
彼はいつも冷静で周囲をよく見ている。
ただ、ソウタに関わる何かがあった時は、そんなエリオットも冷静ではいられなくなっていた。
「ソウタに何かあったのか?」
俺の言葉にエリオットはビクッとする。
今日はソウタと共に、宰相や財務卿に会ってきたはず。
帰ってきてからエリオットのソウタを見つめる目は、どこか寂しげに感じた。
「ソウタが黒翼騎士団を除隊するかもしれない」
ボソッと呟くエリオットの声は微かに震えていた。
「エリオットさん、それはどういうことですか!」
「ソウタは俺たちの家族ッス!」
ゼノやジンも詰め寄るが、エリオットは罰が悪そうに顔を背ける。
「私の叔父、コンラッド団長が養子として迎えようと動いているらしい」
「「「なんだと!?」」」
俺は思わず椅子から立ち上がる。
それはゼノやジンも同じだ。
ソウタのことが大好きなゼノは絶望的な顔をしている。
「知恵が回るから俺は前からアイツを好かん!」
「エルドラン団長、今から乗り込むッス!」
「ひひひ、私が父に頼み処罰させましょうか? 罪をなすりつけて殺すことも視野に入れて――」
さすが俺の部下たちだ。
騎士全員で庁舎を出ようとするが、エリオットは扉の前で水魔法を発動させて、出られないようにしていた。
「俺たちの邪魔をする気か?」
「話は最後まで聞いてください」
エリオットの真剣な顔に俺たちは顔を見合わせる。
頭の回転が早いエリオットなら何か解決策があるのだろう。
「実は叔父だけではないんです。宰相や魔法師団、そしてゼノの父である財務卿までソウタを引き込もうとしています」
「「「なんだと!?」」」
再び俺たちの声は重なる。
貴族たちがこぞってソウタに目をつけたってことだ。
あのソウタならわからなくもない。
暴犬と呼ばれていた青翼騎士団の副団長であるバリーを手懐けたからな。
あの男が変わるなんて、普通ならありえねぇ。
今では孤児院にいる子どもたちのヒーローだ。
「なんで父様が……」
「それだけソウタが有能ってことが認められたってことか」
俺の言葉にエリオットは頷いていた。
「あの年齢で宰相や財務卿に物怖じせず、頭の回転も早いので、将来は国のためになると判断されたと思います」
エリオットの言葉を聞き、宰相や財務卿がソウタを欲しがるのもわかる。
俺が同じ立場でも、きっとソウタに魅了されていただろう。
「それでエリオットに何か考えがあるのだろう?」
静かな空気が部屋全体に広がる。
一向にエリオットの口から言葉が繋がられることがなかった。
「ソウタは頑なに黒翼騎士団の一員だから、家族から離れないって言ってます」
「ならよかったっすね!」
「まだ一緒にパンが作れるのか……」
安心したような騎士たちの表情を見ると、俺は心苦しくなる。
「……いや、ソウタには黒翼騎士団を除隊してもらう」
俺の選択は他の騎士たちとは違う。
「エルドラン団長! どういうことすか!」
「エルドラン団長……一度死にますか?」
ジンは俺に掴み掛かり、ゼノは剣を抜き、今すぐにも切り掛かりそうだ。
「俺たちがソウタの人生をダメにしてどうする!」
ソウタは俺たちと同じ孤児出身だ。
孤児はどうにかして生きる道を見つけなければならない。
俺たちは魔物を倒して生活をしていたから、騎士という役目が与えられた。
爵位を与えると言われたが、頭の悪い俺には無理だと判断した。
でも、ソウタは俺たちとは違う。
「あいつがこれから生きやすいように……俺たちが足枷になってどうする!」
「そうっすよね……。ソウタなら立派な貴族になるっす!」
ジンも納得したのか手を放した。
「ソウタが貴族か……あぁ、そっちの方が婚約もしやすいからちょうど良いのか」
ゼノは何か誤解もしているようだが、剣を鞘に収めた。
貴族は同性同士や年齢差は気にしないのだろうか。
全く貴族は別世界すぎて、俺にはわからない。
ただ、ゼノが剣を腰に戻したことで、俺の命が無事だったことは理解している。
「エリオットはどうだ?」
「私は……エルドラン団長の意見に賛成です。ソウタをこのまま黒翼騎士団に置いておくのはもったいないと思います」
エリオットは一呼吸置いてから、話を繋げる。
「ただ……このままここに縛りつけていいのかわからない」
エリオットは口を震わせ、目を大きく見開いていた。
瞳には涙が溜まっており、必死に流れないように堪えているのだろう。
「ああ、俺もだ!」
ここにいる騎士全員がソウタと一緒に居たいと思っているだろう。
それだけ俺たちにとってソウタの存在は大きい。
時には母親のように接していたと思えば、弟のように甘えてくる。
俺たちよりも考えて動いていると思えば、無鉄砲に突っ込んで変なことに巻き込まれる。
毎日が刺激的だったけど、それと同時に仲間はいても家族という存在がいなかった俺たちに、たくさんのことを教えてくれた。
そんなソウタに出会えて、俺たちは幸せものだ。
今度は俺たちがソウタに返さないといけない。
「お前ら、もうソウタを頼らなくても生きていけるよな?」
「「「ああ!」」」
俺たちができるのは、ソウタに教えてもらった〝規則正しく生きる〟ということだ。
庁舎に帰ったら、手洗いうがいをする。
出したものはすぐに片付ける。
早寝早起きをする。
教えられたことをあげたらキリがないだろう。
でも、俺たちがソウタにできるのはこれぐらいだ。
「お前ら、明日は早起きろよ!」
俺たちはソウタ離れをするために、規則正しい生活をすると決心した。
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