90.兄ちゃん、貴族を知る
「はぁー、明日からも大変そうだな……」
思ったよりもやることが多い日常に、しばらくは忙しい日々が続くのだろう。
「私がいたのにすみません」
謝ってくるエリオットさんの手を僕はギュッと握る。
「別にエリオットさんのせいじゃないですからね。遅かれ早かれ宰相と財務卿から頼まれていたと思いますし」
むしろあの場で青翼騎士団の食事管理とキッシュさんの教育を同時にできるようになったことは大きい。
それにお給料も倍以上もらえるんだから、お願いを聞いておいてよかったぐらいだ。
社畜に関しては……父譲りなのかな。
「手を放すと僕はどこかに行っちゃいますからねー」
僕はイタズラっ子のようにニヤリと笑みを浮かべた。
エリオットさんもそれに気づいたのか、今度はしっかりと手を握っている。
城から出て貴族街を歩いている途中、僕はあることが気になっていた。
「エリオットさん、貴族の誇りと務めって何ですか?」
僕の言葉にエリオットさんの顔に一瞬わずかに雲がかかる。
「……難しい質問ですね」
エリオットさんは少しだけ視線を落とし、それからいつもの柔らかな笑みを浮かべた。
「貴族の誇りとは〝力を持つ者である〟という自覚です。そして務めはその力で国と民を守ることになります」
「それって貢献して爵位を上げるのと関係していますか?」
僕の言葉にエリオットさんは頷いた。
「ええ、大いに関係しています。爵位が上がるほど、扱える力も、守れる範囲も広がりますから」
僕からしたら、なぜそこまで爵位にこだわっているのかわからない。
ただ、そこに執着するだけの理由があるのだろう。
「……そんな貴族が守るのは誰ですか?」
「国王ですか……?」
「それだと半分正解で、半分間違いになりますね」
エリオットさんは足を止めて、僕の視線に合わせるようにしゃがみ込んだ。
「ソウタ、貴族の勤めは国と民を守ることです。国王はその象徴にすぎません」
ブラックマーケット伯爵家が奴隷売買をしているのを知った時、てっきり僕のために怒っているのかと思っていた。
けれど、エリオットさんやゼノさんの怒りは、それだけじゃなかったのかもしれない。
そう思うと、バリーさんが以前と変わったのは、かなり天変地異が起きたことに近いのかな?
「例えば、隣国が攻めてきた時、一番初めに出動するのは――」
「騎士団や魔法師団ですか……」
「ええ、その通りです。だから、騎士団や魔法師団に所属するってことは、命をかけて守ることを意味しています」
エリオットさんの話を聞いて、ユリウスさんの言っていたことが少しだけ理解できた気がする。
魔法が使えないのに、魔法師団に僕がいたら邪魔なだけだもんね。
それにこの世界がゲームの世界ということを、最近は忘れていた。
ゲームのコンセプトは魔王を倒す王道RPGゲームだった気がする。
主人公は勇者となって魔王の討伐をするが、その時にその町や国を救っていたっけ?
「それに爵位が高ければ高いほど、より自分の手で守る範囲……家族や大好きな人たちを安全に守れます」
「そんな僕ができるのは皆さんを支えることぐらいですね」
戦うことができない僕はみんなに美味しいご飯を作ったり、体を休める環境を作ることになる。
今後魔王が出てきたり、本当に隣国から攻められたりしたら、生活は一気に変わるだろう。
急に現実味を帯びて、怖くなってきた。
「ソウタは戦場に行かせないので大丈夫ですよ」
エリオットさんの言葉に僕は安心する。
「それに黒翼騎士団は基本的に直接町の人を守るのが仕事ですからね」
騎士団には各々役割を持っている。
その中でも貴族ではない黒翼騎士団は、前に出ることは少ないらしい。
戦力が魔物特化なのも関係しているのだろう。
でも、本当に魔王が現れたら、黒翼騎士団は出征しないといけない。
弟のやっていたゲームの中だと、魔王が操る部下は魔物だったからね。
「僕も精一杯皆さんのために頑張ります!」
今は僕ができることをしよう。
それしか僕のできることはないからね。
大切な家族を守る力が僕にあればよかったけど、運動すら苦手なこの体では望めない。
「やっと着きましたね」
「お弁当を渡しに行くだけだったのにな……」
昼前に城へ向かったのに、すでに空は夕暮れになっていた。
これからご飯の準備をしないといけないな。
「ただいまー!」
「おっ、ソウタおかえり!」
庁舎の中に入ると、すでに騎士たちは帰ってきていた。
中から良い匂いが部屋中に広がっている。
「夜ご飯を作ってたんですか?」
「おう! 今日は唐揚げだぞ!」
山盛りに盛っている唐揚げをエルドラン団長は運んでいた。
今では騎士たちだけでも、ご飯を作れるようにはなってきた。
ほとんどが揚げ物ばかりだし、形や大きさもばらばらで、ところどころ焦げた色が混じっている。
それでも僕はエルドラン団長が作った揚げ物が大好きだ。
「エルドラン団長の唐揚げ美味しいから好きです」
「ははは、そう言ってもらえると報われるな。今日はいちひゃく……にひゃく……個以上は揚げたぞ!」
僕はエルドラン団長の言葉に驚いた。
確かにテーブルの上には山積みになった唐揚げとパンしか置いてない。
「すぐにサラダとスープも作りますね」
「あー、うん……」
サラダがあまり好きではないエルドラン団長は浮かない顔をしていた。
すぐに調理場に行くと、保存してある鶏がらスープに水と肉や野菜を入れて、火を通していく。
「ソウタ、サラダもできましたよ」
サラダ好きのエリオットさんは、騎士団の中で一番作るのが早い。
できたばかりのスープとサラダを運んで、僕たちは手を合わせる。
「いただきます!」
次々と騎士たちの手は唐揚げに伸びていく。
山になった唐揚げもすぐになくなるだろう。
「みなさん、サラダとスープも食べてくださいね」
「はーい」
少し嫌そうな声が重なって聞こえてくるけど、今日も僕の家族は変わりないようだ。
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