87.兄ちゃん、迎えが来る
「それでミレイユ団長は今回なんで小さくなったんですか? 複合魔法が――」
「そうそう、ソウタよ! 君の知識が必要だと思ってね」
魔法が使えない僕には用がないと思ったが、どうやら僕に知識を借りたいようだ。
ただ、僕に魔法の知識は全くない。
「僕にできるのは家事ぐらいで――」
「その家事魔法を私にも教えてくれないか?」
「家事魔法ですか?」
聞いたことない言葉に僕は首を傾げる。
「エリオット副団長が使っていたやつだ」
どうやら家事魔法って僕が名付けた洗濯魔法やドライヤー魔法のことを言っているのだろう。
どうやらユリウスさんは会議の場で見ていたから、それをミレイユ団長に話したようだ。
「あー、洗濯魔法なら水をクルクル回す意識で水魔法を使ったらできますよ?」
「ん? それはどういうことだ?」
「どういうことって言われても、僕はエリオットさんに想像してもらいながら魔法を使ってもらっただけですし……」
初めて洗濯魔法を使った時も、イメージをエリオットさんに共有しただけだ。
そう思うと、エリオットさんは優秀で頭の柔軟性があるのだろう。
「呪文の詠唱はなんだ?」
「呪文の詠唱ですか……?」
僕はエリオットさんが洗濯魔法を使っている時のことを思い出す。
「確かクルクルって言ってましたよ」
「クルクルか……」
ミレイユ団長はクルクルと口で言いながら、水魔法を発動させた。
だが、エリオットさんよりも何回りか大きな水球が浮いているだけだ。
「これが洗濯魔法か?」
「いや、普通の水魔法だと思います」
エリオットさんの洗濯魔法は水魔法が発動されたら、すぐに中で回転が始まっていた。
「くっ……この私ができないとは……」
ミレイユ団長はどこか悔しそうな顔をしていた。
魔法師団の団長でも、今まであった概念を崩すのは難しいのかもしれない。
そう思うと、エリオットさんとゼノさんは相当優秀な人だね。
「んー、想像が足りないのかな……。コップに水を入れてもらっていいですか?」
僕の言葉にミレイユ団長は首を傾げながらも、ビーカーのような道具に水魔法を使って中を満たす。
「この中身をかき混ぜるイメージだとやりやすいって聞きました」
指を入れてクルクルと混ぜる。
「ほぉ、それで呪文の詠唱が〝クルクル〟なのか」
きっとエリオットさんとゼノさんは、想像しやすい言葉を呪文詠唱にしていたはず。
洗濯魔法なら〝クルクル〟、ドライヤー魔法なら〝パン〟だった気がする。
「クルクル……クルクル……クルクルクルクル洗濯魔法!」
ミレイユ団地が呪文詠唱をしながら、想像力を膨らませると大きな水球の中が回り始める。
「わぁー! 成功ですね!」
僕の言葉にミレイユ団長は嬉しそうに笑っていた。
「ははは、私は天才だからな!」
ミレイユ団長は自慢するように胸を張っていた。
「ソウタ、何か悪いことを考えていないか?」
「きっと今のミレイユ団長の胸が――」
「馬鹿者!」
口を挟んだユリウスさんは洗濯魔法を頭上から被されていた。
「ははは、私を舐めるとこうなるんだぞ!」
「おー、大人が入れる大きさなら、一度で洗える業務用の大型洗濯機と同じですね!」
「大型洗濯機……?」
エリオットさんよりも何回りか大きな洗濯魔法に僕も嬉しくなってくる。
彼の洗濯魔法は何回かに分けて洗わないと中々汚れが落ちない。
ここまで大きな洗濯魔法なら、騎士たちの服を一気に洗えるだろう。
ずっと大きい洗濯機……洗濯魔法が欲しかったからね。
「まぁ、何にせよ新しい魔法がどうやって生まれるのかわかったから君を連れてきてよかった」
複合魔法とは別のものらしいけど、魔法はより想像を明確にするだけで使い勝手が変わると勉強になったらしい。
どうやら僕でも魔法の役に立ったようだ。
「では、僕は帰りますね」
エリオットさんもそろそろ心配しているだろう。
――ガチャ!
扉に手を伸ばしたら、勝手に開いた。
「あっ……」
「ソウタアアアアアアア!」
そこにいたのはエリオットさんだった。
彼は僕を見つけると否や、すぐに抱きつきホッとした顔をしている。
「ご迷惑おかけしてすみません。魔法師団に誘拐されてました」
僕は自ら迷子になったわけではないことを伝える。
小さいとすぐに迷子になった扱いされるもんね。
「誘拐だと!?」
チラッとしかエリオットさんの顔が見えなかったが、メガネの奥から鋭い目つきで睨みつけていた。
「君のところの部下は本当に優秀だ。ほら、私も洗濯魔法が使えるようになったぞ!」
ミレイユ団長はエリオットさんの視線を特に気にしていないのだろう。
使えるようになったばかりの洗濯魔法を見せつけていた。
ただ、中で回っているユリウスさんは溺れていないのだろうか。
いまだに洗濯されている。
「私はもう役立たずですか……」
鋭かったエリオットさんの目つきが一瞬で悲しみに包まれた。
小さく呟いたエリオットさんの声に、僕は急いで首を横に振る。
「違う! エリオットさんは役立たずなんかじゃない!」
まさかエリオットさんがゼノさんみたいなことを言うとは思わなかった。
いつものエリオットさんは冷静だもん。
だけど、今はやけに不安そうにしている。
きっと僕が誘拐されたと聞いて、真面目なエリオットさんは責任を感じていそうだ。
「そもそもエリオットさんは黒翼騎士団の副団長だし、我が騎士団のお金の管理をしているじゃないですか!」
僕はエリオットさんを慰めるように言葉を放つ。
それに家計簿しかつけたことない僕が管理できる範囲じゃないから、確実にエリオットさんは必要な存在だ。
「エリオットさんのことを役立たずって言う人がいたら、僕が叱りに行きます!」
「ふふふ、そうか……。ソウタの役に立っているならよかった」
僕の言葉にエリオットさんは安心したのか、嬉しそうに笑っていた。
そんなエリオットさんを僕はギューッと抱きしめる。
「ないよな……」
まるでゼノさんが中に入っているか確認してみるが、背中にチャックはない。
魔法がある世界だから、人の中に入り込む着ぐるみ魔法があってもおかしくないからね。
「さぁ、帰りましょうか」
「そうですね!」
誘拐されないように、僕はエリオットさんにそのまま抱きかかえられたまま帰ることにした。
これなら誘拐されることはないからね。
「君たち待ちたまえ!」
だが、そんな僕たちに声をかける人物がいた。
エリオットさんが逃げるようにすぐに向きを変えると、そこには宰相と財務卿が立っているのが見えた。
今度こそ帰れると思ったが、誘拐されなくてもやっぱり帰れないようだ。
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