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転生先で生活能力ゼロ騎士団に保護された結果、僕がおかんになりました〜誤解されがちな騎士団を立て直します〜  作者: k-ing☆5シリーズ書籍発売中
第三章

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84.兄ちゃん、身の危険を感じる

「次は財務卿ですね」

「財務局もすぐ近くですけど、執務室にいたらいいですね」


 どうやら財務局がある執務室と国庫の帳簿が保管されている倉庫が離れているため、倉庫の方にいたら会えないようだ。


「財務局も忙しいんですね」

「ブラックマーケット伯爵家の一件から、帳簿を見返しているらしいですよ」


 孤児院の奴隷売買が公になり、財務局も他の貴族が関係していないか、過去の帳簿に怪しい不備がないかを見直しているらしい。

 そもそも提出された時に疑ったり、聴取をしなかったことに驚きだけど、すぐに対処できるゼノさんのお父さんは優秀なのかもしれない。


「ここが財務局ですね」


 扉の前に立つと、さっきと同じように扉を叩く。


「あれ? 何も反応ありませんね」

「中を覗いてみましょうか」


 ひょっとしたら、みんな倉庫に行っているのかもしれない。

 僕とエリオットさんは扉を少し開けて中を覗く。


「あーのー、今大丈夫ですか?」


 そこには机に顔を伏せる文官たちがいた。

 手にはインクがたくさん付いているし、机には紙が山積みになっている。

 僕たちに気づいて顔を上げるが、目の下にはクマができており、まるでゾンビのような見た目をしていた。

 父さんも仕事で忙しい時はあまり家に帰ってこなかったけど、似たような顔をしていたな。


「何のご用でしょうか……」


 女性の文官が眠たそうな顔で要件を聞いてきた。


「財務卿はいらっしゃいますか? お弁当を持ってきた黒翼騎士団所属のソウタです」


 僕の名前を聞いた瞬間、文官たちは立ち上がり頭を下げた。


「この度はご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 あまりにも勢いよく頭を下げられたから、僕とエリオットさんは呆然としてしまった。

 この間会った時は優しそうな人だったけど、財務卿は厳しい人なんだろう。


「いえいえ、皆さんもお疲れ様でした。よかったら飴でも食べますか?」


 僕は紙とハンカチに包んでいる飴を取り出す。

 ドライフルーツをべっこう飴で包んだ簡単なお菓子だ。

 疲れた時に糖分摂取をしようと思ったけど、今の僕より財務局の文官たちの方が必要な気がする。


「わぁ、宝石みたいですね!」

「ゼノさんに手伝ってもらったんです」

「ゼノさんって財務卿のご子息……ヴァルディエール公爵家の次男で間違いありませんか?」


 僕が頷くと文官は驚いた顔をしていた。

 ゼノさんはどういう印象を持たれているのだろうか。


「ドライフルーツを作るのに風魔法が便利なので、ゼノさんは我が家には必要な人材ですよ」


 僕はゼノさんの風魔法を使って、果物の水分を飛ばして、湿気を溜めないようにした。

 それに温度も調整できるから、乾燥効率もアップする。

 ドライヤー魔法から、送風乾燥魔法に進化したってことだね。

 これでゼノさんを知る人たちの印象も少し変わるのだろう。


「私の息子をそんな風に使っているとはな……」


 突然、背後から声が聞こえて、僕はビクッとする。

 振り返ると、執務室の扉付近に財務卿が立っていた。

 どうやら文官が驚いたのは、財務卿の姿が見えたからだろう。


「あっ、お弁当をお持ちしました。よかったらゼノさんと作った飴も食べてください」


 僕はエリオットさんから、お弁当を奪うような形で机に置き、すぐにその場を立ち去ることにした。

 さすがに財務卿の反応からして、良い印象を抱いていないはず。

 息子が便利な家電として扱われていると知ったら、普通は怒ってしまうからね。


「では、僕はこれで失礼します」

「あっ――」


 誰かが僕を止めようとしたが、聞こえないふりをしてすぐに走った。

 今は引き止められた方が大変そうだから、礼儀なんて知らない。

 

「ソウタ、よかったんですか?」

「何がですか?」

「財務卿が何か話したそうな顔をしていましたよ」


 やっぱり僕を引き止めたのは財務卿らしい。

 僕はお弁当を作って持ってくるのが仕事だから、それが済めば問題はないはず。

 それにリヒャルト殿下を待たせるわけにはいかないからね。


「白翼騎士団はどこにいるんですか?」

「大体は城にある訓練場で訓練をしているか、王族の近衛騎士なので王族の護衛任務に出ているかと」


 どうやら主な活動は近衛騎士として、護衛しているだけのようだ。

 人数もそこまで多いわけではなく、少人数のエリート集団らしい。


「リヒャルト殿下も王族の護衛をするんですか?」

「そうですね。担当は国王なので……」

「まさか国王に会うことになるパターンも」

「ないわけではないですよ」


 まさか国王に会う可能性があるとは思わなかった。


「ただ、リヒャルト殿下が護衛に出ている間は、さすがにお会いすることはできないので、限りなく国王に会うことは少ないと思います」

「それはよかったです」


 急に国王に出会ったら驚いて、その場で土下座をするだろう。

 だって、この国の国王って天皇みたいなものだもんね。


「もうそろそろで訓練場に到着します」


 訓練場は城と直結しているが、少し離れたところにある。

 さっきまでいた宰相府や財務局とは反対側にあり、その途中に財務局の管理する帳簿倉庫があるらしい。

 確かに図書館みたいな場所もあったから、資料は一括に管理されているのだろう。

 エリオットさんに案内されるがまま付いて行くと、広い広場のようなところが目に入った。

 気迫ある声が訓練場に響いている。


「リヒャルト殿下は……」


 僕はリヒャルト殿下がいないかを遠くから確認する。


「背丈が似ている人がいるため、遠くからじゃわからないですね」

「もう少し近づいてみますか?」


 僕はエリオットさんと近づこうとしたら、向こうから誰かが飛んできた。

 ……うん、僕もびっくりしたけど、本当に人が飛んでいる。


「あっ、君はあの時のお弁当の少年だね」


 僕の元へ来たのは白翼騎士団の副団長を務める……確か変わった――。


「ピアノ……」

「私の家名まで知っているのは運命か!?」

「へっ……?」


 僕は首を横に傾げる。


「彼はピアノ公爵家のフォルテ副団長ですよ」


 エリオットさんと目が合うと、軽く自己紹介をしてくれた。


「公爵家ってことはゼノさんと同じ爵位ですね」

「ええ、ゼノは私の親戚にあたります」


 どうやら公爵家は変わり者が集まる爵位のようだ。

 それにゼノさんも風魔法で飛べるって言っていた気がするけど、親戚なのも関係しているのかな。


「リヒャルト殿下にお弁当を渡しにきました」


 僕はフォルテさんにお弁当を渡すと、不思議な顔をしていた。

 もしかして、持ってこない方がよかったのだろうか。


「私の分はないのですか? 私と君は運命の相手ですよ」

「えーっと……どちらもないです!」

「くっ……不協和音が聞こえる……」


 ひょっとしたらゼノさんよりも厄介な気がする。


「次は私の分もお願いします」

「いや……」

「騎士団の庁舎へカノンしてもいいのかい?」


 時折、音楽用語が混ざっているような気がするけどどういうことだろう。

 カノンって聞いたことはあるけど、あまり意味がわかっていない。


「遊びに来るってことですか? エリオットさんがいいなら……」


 僕はエリオットさんをチラッと見ると、首を横に振っていた。

 そして、僕の手を掴み、その場から立ち去ろうとしている。

 訓練をしていた白翼騎士団の騎士も気になっているのか、こっちを睨むように見ているしね。


「機会があればまた持って――」

「もう来る予定はないので失礼します!」


 曖昧に答えようとしたら、僕の体はエリオットさんに抱きかかえられていた。


「待ってくれ! 私の運命よ!」


 手を上げて僕を掴もうとするフォルテさん。

 どこか嘆いている姿が、まるで悲劇のワンシーンみたいだ。


「あのー、そういえばカノンってどういう意味ですか?」


 そのまま訓練場を後にした僕はエリオットさんにさっきの意味を聞いてみた。


「あれは同じ旋律を追いかけるって意味なので、ソウタのことをいつまでも追いかけると……」


 えーっと……それはずっとストーカーするってことなのかな?

 僕のことを運命の相手って言うぐらいだし……。

 やっぱりゼノさんよりも厄介な人物だったようだ。

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