83.兄ちゃん、文官を知る
数日後、孤児院の管理を青翼騎士団および黒翼騎士団がすることが正式に決まった。
ただ、今までとは違い、貴族が管理するという制度から国の管轄の元で騎士団が運営することになった。
騎士団自体が公務員みたいなものだから、それが妥当な判断だろう。
まさか元々の制度まで変わるとは思わなかったけど、宰相と財務卿。そして、リヒャルト殿下による影響が強そうだ。
「今日はエリオットさんが一緒に来てくれるんですよね?」
「ええ、ソウタ一人では何かあった時には対処できないですから」
エリオットさんの言う通り、貴族のことがよくわからない僕では何かあった時に対処ができない。
貴族のエリオットさんがいれば、基本的に彼に任せれば問題ないだろう。
「ソウタ、財務卿には気をつけるんだよ」
初めは爵位が高いゼノさんが行く話になっていたが、財務卿に会うことを伝えたら辞退していた。
そこまでして父親に会いたくないのだろうか。
普段は朝から僕に甘えて駄々をこねるのに、今日は朝からかっこいいゼノさんのままだ。
「私が付いているから大丈夫です」
「財務卿もだが宰相も頭が回る人だ。エリオットさん、頼みましたよ」
ゼノさんは僕が何かに巻き込まれることを気にしているのだろう。
宰相や財務卿にお願いされると、黒翼騎士団に所属している僕は逆らえないらしい。
会社勤めをしたことがないけど、父さんが上司の指示だからって愚痴を言ってたのはこういうことなのかな?
騎士たちを見送った後は、僕もエリオットさんと貴族街に向かう。
孤児院には朝からキッシュさんが行っているから、僕が何かすることはない。
「貴族街に来ることはあまりないって言ってたのに、今週二度目ですね」
「これでソウタの用事も終わればいいですけどね」
まるでお弁当屋が続くような言い方だ。
その場で食べる料理とは違って、お弁当は味が少し落ちてしまう。
きっと食べてみたら、噂だけのただの料理と思うはず。
相手は王族と爵位の高い人たちだから、美味しい料理を普段から食べているからね。
それに今回はお世辞でお弁当に興味を示したように言っただけだと思っている。
無視をしても、僕が不敬罪になってしまうからね。
城に着くと、周囲から視線が向けられる。
さすがに大荷物を持った黒翼騎士団の騎士って目立つからね。
それに僕が子どもなのもあるだろう。
「どこから迎えばいいんですかね?」
「まずは宰相か財務卿のところに行くのが妥当ですね。会議で忙しい日は、捕まえられるかわからないですし」
どこにいるかわからない僕はエリオットさんの後ろをついていく。
周囲には働く貴族ばかりで少し怖い。
エリオットさんやゼノさんみたいに優しい人ばかりならいいけど、孤児院で奴隷売買していたブラックマーケット伯爵家も貴族だからね。
僕は迷子になったらいけないと思い、エリオットさんの団服の裾を掴む。
「ソウタ……ああ、お弁当を持ってましたね」
エリオットさんは僕と手を繋ごうとしたけど、お弁当を持っている。だから、僕は団服の裾を掴んでいた。
「私から離れないでくださいね」
僕がこくりと頷くと、エリオットさんはどこか嬉しそうに笑いながら歩き出す。
「宰相は政務室、財務卿は国庫財務局にいることが多い。どちらも城の奥の方にあるが、国王の執務室の近くにあるから気を抜かないように」
やはり僕はエリオットさんの後ろに付いて歩くのが正解だった。
今から行くところは爵位が高い貴族や王族に会う可能性がある。
確かに奥に行けばいくほど、着ている装いが華美になり、肩にマントを付けている。
「マントの色が違うのは何か理由があるんですか?」
「ソウタは周りをよく見ているね。マントの色で管轄が変わっている」
どうやら騎士団のように省庁毎にマントの色が異なっているらしい。
「政務官や政策立案に関わる宰相府は紺色、財務卿のような税務や国庫管理をする財務局が茶色とかね」
他にも国民の戸籍や土地を管理する内務局は黒色、法務・監査局は青緑色、外交・儀礼局は紫色となっている。
黒翼騎士団が黒色の団服なのも、内務局の黒色と合わせているのだろう。
どこか黒色のマントの人たちが一礼するのに対し、青緑色のマントを付けている法務・監査局は睨みつけるように僕たちを見ていた。
きっと僕たちに迷惑をかけたと頭を下げる人と仕事を増やしたことで怒っている人なんだろう。
その他に役職付きは大きなマントをしているが、その他は肩に小さなマントを付けているらしい。
役職によってマントの長さが違うならわかりやすいね。
「ソウタ、着きましたよ」
エリオットさんが立ち止まると、僕は気を引き締める。
扉を叩くとすぐに声が聞こえてきた。
「入れ!」
「お忙しいところ失礼します。黒翼騎士団のソウタです」
隙間から中を覗き、様子を伺う。
中には数人の文官が机に向かって働いていた。
どこか職員室に来たような気分だ。
「おお、久しぶりだな。お弁当ってやつを持ってきてくれたのか?」
「はい。中に入ってもよろしいですか?」
「ああ、こっちに来てくれ」
近くの文官にお弁当を渡そうと思っていたが、直接渡さないといけないようだ。
「これが宰相の分です」
僕はエリオットさんからお弁当を受け取ると、恐る恐る宰相がいるところに向かって歩いていく。
チラッと振り返ると、エリオットさんは入口の前に立っていた。
一人で持っていけってことなんだろう。
「本日は煮込みハンバーグとパンを用意しました」
「ほぉ、お弁当ってのは容器に料理を入れることを言うのか」
宰相はお弁当箱を興味深そうに見ていた。
何がお弁当かはわからなかったようだ。
そして、パンを手に持った瞬間、わずかに驚いた顔をしていた。
「黒翼騎士団が外へ魔物退治に行く際にいつも硬いパンと干し肉を持って出かけるのが気になっていました。命がけの現場なのもあり、せめてお昼だけでも気が落ち着いて、元気にお勤めができるようにっと思い作り始めたのがきっかけです」
僕が簡単にお弁当を作るきっかけになったことを話すと、みんなの視線が集まる。
「なんていい子なんだ……」
「うちの息子はどこで道を間違えたんだ」
宰相府の文官たちも子育ては大変のようだ。
貴族としてだけではなく、父としての威厳も示さないといけないからね。
「ソウタはそんな前から私たちのことを思ってくれていたのか……」
入り口にいるエリオットさんも、若干涙を流している。
みんな相当疲れているんだろうね。
「では、次は財務卿にお会いしないと行けないので……」
僕は一礼して、すぐにエリオットさんとともに執務室を後にした。
「エリオットさん、すぐに移動しますよ」
「そんなに急いで――」
「早く!」
急いでその場を立ち去るには訳がある。
あのままいたら、確実に質問攻めにされただろう。
パンを手に持った時の宰相の顔は、明らかに初めて黒翼騎士団でパンを作った時と同じ顔をしていた。
「なんだこれえええええ!」
執務室から立ち去っても宰相の声は廊下に響いていた。
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